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オークション会場は地獄絵図を展開していた。 突然動き出した操り人形達。そいつらの虚ろな瞳と錆びた短剣から逃げ惑うオークションの参加客。 大抵の者達は自らの陥った状況を理解出来ず、ただ闇雲に逃げ惑っていた。 血の結界によって閉鎖空間となったホールに在りもしない逃げ場を求めて駆け回り、椅子に躓いて転倒し、二階の客席から転げ落ちる。 そして足や腕を負傷して、呻き、ただすすり泣くだけの憐れな子羊と化して徘徊する悪魔達から逃れる為に神に助けを請い続けた。 しかし、そんな彼らはまだ幸運な方だった。 皮肉にも、不必要に動かなくなった彼らは混乱の中で奮戦するなのは達にとって保護しやすい対象となる。 賢い者達は、この状況でなけなしの理性を保ち、冷静さを失わなかった者達だった。 恐怖に先走らず、動き鈍い人形達を警戒して、壁を背にして器用に逃げ回っていた。 ――そして最も愚かなのは、混乱し、『他人を犠牲にしてでも助かりたい』と自分勝手に行動する者達だった。 「ど、どけっ! 邪魔だぁ!!」 肥満体を必死で動かし、逃げ惑う人々を掻き分けて、時には迫り来る<悪魔>の前へ囮として突き飛ばす。 「落ち着いて! 必ず助けます、混乱しないで下さい!!」 懇願にも似たフェイトの警告も、冷静さを欠いた自己保身のみに動き続ける者の脳には届かない。 一部の暴走した者達が被害と混乱の拡大を促し、なのはとフェイトはそのフォローに行動を割かれる最悪の展開となりつつあった。 混乱を振り撒いていることも自覚せず、肥満体は走り続ける。 これまでの人生のように、自分の身の為だけに奔走する男は混沌の中で助かる道を見つけ出した。 誰もが逃げ惑う中、ただ一人周囲の<悪魔>達を打ち倒し続ける男がいる。 「頼む、助けてくれ! 金なら幾らでも払う!!」 二挺の銃型デバイスを振り回し、この地獄の中でも決して鈍らない力の輝きを放つその存在へ、彼は縋り付いた。 自らの仕事を遂行していたダンテは、男の必死な形相を一瞥する。 「――金か。確かに、今丁度要り様なんだ」 「だろう!? この場の誰よりも高く払うぞ! だから、私を助けるんだ!!」 「OK、助けてやるぜ。そら、危ない」 そう言って、笑いながらダンテは彼をサッカーボールよろしく蹴っ飛ばした。 文字通り豚のような悲鳴と共に肥満体は軽々と宙を飛び、壁に激突して沈黙する。そのコンマ一秒後に男の居た場所に投げナイフが突き刺さった。 意識と数本の歯を引き換えに男は命を救われ、次の瞬間ダンテの魔力弾が射線の先にいた人形を粉砕した。 「やりすぎです」 「おっと失礼。人命優先ってことで許してくれ」 狙って蹴ったものか、すぐ傍にいたなのはが気絶した男に防護結界を張る中、さすがに顔を顰める様子にダンテは嘯いてみせる。 皮肉を込めた返答に、なのはは困ったように沈黙するしかない。 自己保身の為の暴走で、被害が増えることをこれで抑え、同時にこれは本人の安全の為にもなる。 やり方は乱暴だが、ただ敵を倒すのではなく周囲に気を配っているダンテの戦い方を、なのはは信頼しつつあった。 「この敵のこと、何か知ってるみたいですけど……っ」 「悠長に説明してる暇はないが、一つだけ言っとくと、客を逃がそうなんて思うなよ。外にコイツらがいない保証はないぜ」 「……分かってます」 内心、ダンテに援護を頼み、自分が結界を砲撃で破壊するという考えもあったなのははそれを改めた。 結界の得体がまるで知れない以上、砲撃の出力調整のミスは余剰エネルギーによる建物の破壊とそれに次ぐ崩落の危機を招くし、脱出を求める客の行動が更に被害を拡大させる事は想像に難くない。 自分でも焦りがあることを自覚し、なのはは冷静になるように努めた。 しかし、このままではジリ貧なのは確かだ。 室内戦に適したフェイトが持ち前のスピードで混戦の中奔走することで、未だ死者だけは出ていないが、それは多少の幸運も関わっての結果だ。 この状況が続けば、疑問に思わざる得ない。 果たして、サイコロを振って同じ目を出し続けることが何時まで出来るのか――? その答えはすぐに出た。 「――ッ! 危ない!」 ディバインシューターでまた一人の客を襲おうとしていた敵を撃破したなのはは、そのすぐ傍で抱き合って蹲る老夫婦を見つけ、意味のない警告を発した。 別の人形が二階からナイフを振り上げて飛び降りようとしている中、神に祈るしかない彼らは一歩も動かない。 「ディバイン……っ!」 「避けろ!」 すぐさま次弾の魔力を練り上げるなのはを、不意にダンテが突き飛ばした。 一瞬遅れて、飛来したナイフがなのはの頬を掠める。 鍛え上げられた危機回避能力が無意識に体を動かし、なのはは反射的に形成した魔力弾をカウンターで撃ち出してしまった。 自分を攻撃した敵を素早く粉砕し、しかし次の瞬間絶望的な失敗を悟る。 「あ」 なのはに残された行動は、そんな間の抜けた言葉を漏らして視線を老夫婦に戻すことだけだった。 悪魔の人形が嬉々として彼らに飛び掛る。 それはあの二人の死を意味する。なのに唯一それに気付く自分はもう何も出来ない。 すぐに形成しようとする次の魔力弾は、完全に間に合わず。 なのはの目の前で、ついに犠牲が出ようとして――。 「させるかぁ!」 間に割り込んだユーノの展開するバリアによってそれは防がれた。 「ユーノく……っ」 「なのは、打ち上げるよ! 墜として!」 「――!! 分かった!」 意外な乱入に驚愕するよりも先にユーノの声がなのはの体を突き動かし、魔法を行使させた。 ユーノは左腕で展開したプロテクションで人形の体ごと攻撃を受け止め、右腕をフィールド系の魔法で防護する。 そして振り抜いた拳は、貧弱な腕力よりも障壁の反発作用によって、枯れ木で出来た人形の体を軽々と宙へ弾き飛ばした。 「シュート!」 放たれた桃色の弾丸が、空中で標的をバラバラに爆砕した。 10年ぶりのコンビネーションを成功させたなのはとユーノ、互いに幾つもの感情を交えて視線を交差させる。 交わしたい言葉や疑問は幾つもあった。 「――敵の動きを止める! 一気にカタをつけるんだ!」 「――分かった!!」 しかし、言葉など交わすまでもなく、今この場で最も必要な判断と行動を二人は無意識下で互いに理解し合っていた。 ユーノとなのは、二人は自分の成すべき魔法を準備する。 「フェイトちゃん、勝負を掛けるよ!」 混戦の中、貫くように走るなのはの声をフェイトは聞き逃さず、その真意も間違えない。 ここぞという時の為に控えていた高速移動魔法を発動させ、フェイトはなのはの空白の時間を埋めるべく疾走する。 制限時間のあるフェイトのフォローの間に、なのはは独り敵を撃ち続けるダンテにも声を飛ばした。 「敵の動きが止まります! 合わせて!!」 端的ななのはの言葉に、ダンテは目配せ一つで応じてみせる。 そして、ユーノの魔法が完成した。 「いくよ! <レストリクトロック>!!」 集束系上位魔法が発動する。 指定区域内の対象を全て捕縛するバインド。発動と同時に、ホール内で動く全ての<悪魔>と、逃げ惑う人間を纏めて無数の光の輪が捕らえた。 敵味方問わない無差別な捕縛だが、その対象数を考慮すれば信じられないほど高度な魔法技術であることは明白だった。 魔女の釜の如き混沌とした空間が唐突に全て制止される光景に、それを待ち構えていたなのはすら圧巻される。 実戦から退いていたとはいえ、成長したユーノの実力はなのはの予想を超えるものだった。 一瞬呆けてしまう中、ダンテの純粋な感嘆の口笛だけが軽快に響く。 「なるほど、こいつはスゴい。食べ放題ってワケだ」 「数が多い! 守って五秒!」 「三秒で十分さ」 不敵に笑うダンテの両腕が集束された魔力を帯びて赤く発光し、スパークを放ち始めた。 我に返ったなのはがすぐさま魔力弾を周囲に形成する。フェイトによって稼がれた貴重な時間を使い、用意した弾数は倍近い。 「いくぜ?」 「今っ!」 言葉も交わさず、互いに相手の射線を把握し、自分が撃つべき標的を捉える。 「Fire!!」 「シュート!!」 引き絞られた弓のように、満を持して二種類の光が解き放たれた。 真紅と桃色の光弾が乱れ飛び、敵だけを正確に捉えてそれに直撃し、呪われた人形を吹き飛ばす音が連続した爆音となりホールを埋め尽くす。 一瞬にして一方的な破壊の嵐が暴れ回る。動けなくなった人々の悲鳴はその中に埋もれていった。 そして、束の間の嵐が過ぎ去った時、後に残るのは人間だけだった。 あれほどいた<悪魔>は一匹残らず消し飛び、敵の全滅を示すようにホールの扉を覆っていた赤い結界は音を立てて砕け散る。 「――BINGO」 唐突に取り戻された静寂の中、ダンテは舞台の幕を閉じるように、これ見よがしに銃口から立ち昇る煙を口で吹いて見せたのだった。 魔法少女リリカルなのはStylish 第十四話『Cross Fire』 「――うん、そう。こっちの戦闘は終了したよ。重軽傷者は多数、でも死者は出てないから」 状況から考えれば奇跡的とも言える結果を確認したなのはが通信を行う中、ユーノ達はホールのステージ付近に集められた客の様子を見て回っていた。 結界が解除された今、何人かは外に出ることを強く主張していたが、外でも戦闘があったことを告げるとすぐに黙り込んだ。 誰もが回避された惨劇に安堵し、同時にジワジワと実感を持って蘇る恐怖の余韻に身を強張らせていた。 「すぐに救護隊が来ます。それまで辛抱して下さい」 「腕が……腕が折れてるんだっ! 早く治すよう言ってくれ!!」 フェイトは無用なパニックを起こさないよう笑顔を振り撒き、客の一人一人に声を掛けていたが、似合わないタキシードの中年が泣き付いて来て対応に困っていた。 重傷者に治癒魔法をかけるユーノを指して、男はただひたすら腕が折れていることを主張し続ける。 「すみません、重傷者が優先なんです。それに、彼が働いているのは善意で……」 「うるさいっ! 分かっているのか!? 腕が折れてるんだぞ、腕が……っ!」 「へえ、そうかい。痛むのか?」 辛抱強く落ち着かせようとするフェイトの横から、ぬっと腕が伸びて、迫る男の肩を押さえ込んだ。折れた腕の方の肩を。 走り抜ける激痛に、男は言葉を忘れて奇怪な悲鳴を上げた。 しかし、ダンテはそんな様子を尻目に優しい笑顔を浮かべながら、加減もせずにポンポンと肩を叩く。 「ああ、確かに痛そうだ。だが、こんな美人に怪我の心配をしてもらえるんだから、男ならやせ我慢の一つも見せなきゃな?」 呆気に取られるフェイトの前で、ついに泡を吹き始める男の顔に何を感じ取ったのか、納得するようにダンテは頷いた。 「そうか。分かってくれて嬉しいぜ」 「相手は怪我人なんですよ……?」 「怪我人なら他に山ほど居るさ。甘やかす歳でもないだろ」 諌めるフェイトに、ダンテは全く悪びれもせずに笑って見せたのだった。 様子を伺っていた周囲の者達の間で飛び交う自分勝手な文句が鳴りを潜める中、ダンテ達はなのはの元へと集まった。 「とりあえず、応急処置は施したよ。命に関わる怪我の人はいないね」 「ありがとう、ユーノ君。それに……久しぶりだね」 「うん。僕も、驚いたよ」 なのはとユーノの二人の間に何とも言えない空気が漂った。 二人が顔を合わせるのは実に久しぶりのことだったし、大人になって少しずつ言葉を交わし辛くなりつつあった中、窮地において変わらず心を通わせ合えたことが嬉しかった。 「……ポップコーン買って来るか?」 「しっ、少しだけそっとしておいて上げましょうよ」 そして、傍らで一連のシーンが終わるまで待ち惚けを喰らう二人を思い出して、なのはとユーノは我に返った。 顔を赤らめながら咳払い一つ。お互い、心なし距離を取り合う。 冷静になった。今は、こんな悠長なことをしている場合じゃない。 「それで、あの……」 「ダンテだ。職業は便利屋。ここにはお偉いさんの護衛に雇われて来た」 どう切り出したものか、と伺うなのはの様子を察して、ダンテは手短に自己紹介を済ませた。 基本的な質問には幾らでも答えられるが、<悪魔>に関してはどう説明したものかと顔に出さずに悩むしかない。 それに、敵のいなくなった今でも何か違和感が残って仕方ない。 先ほどから、さりげなく走らせる視線に護衛すべき男の姿が一向に捉えられないのも気になった。 「さて、アンタらも何から聞いたらいいのか分からないって顔だが、俺もどう話せばいいもんか悩んでてね」 「そうですね……とりあえず、わたしは高町なのはといいます。機動六課所属の分隊長をやっています」 「ナノハ、ね――アンタらの知り合いにヴィータやザフィーラって奴がいれば、話は早いんだが」 ダンテは全く期待せずにその名前を出したが、三人は一様に驚きの視線を彼に向けた。 「知ってるんですか、ヴィータちゃんのこと!?」 「……まさか本当に知り合いなのか?」 「同じ部隊の所属です。それに、ダンテさんはひょっとしてティアナと知り合いじゃないですか?」 「オイオイ、ティアまでいるってのか? 冗談が現実になりやがった」 「やっぱり。ティアナは外で警備に当たってます。よければ、会いますか? その方が話もしやすいと思うし」 「ハハッ、いいね。感動の再会って言うらしいぜ、こういうの」 そう言って破顔するダンテの表情を、これまでの見せ掛けではない純粋な笑顔だとなのは達は感じた。 そこにはティアナに対する確かな親愛の情があった。 目の前の得体の知れない男に抱く最後の不信感が消えていく。 不法所持の可能性があるデバイス。自分の部下と共通する戦闘スタイル。そして何より、その力。 警戒に値する要素は幾つもあるが、それを打ち消しているのはたった今判明した彼の人間関係と、何より彼自身の人柄だった。 悪い男ではない。なのははようやく、何の隔たりもない友好的な笑みを浮かべることが出来た。 「お話、聞かせてもらってもいいですか?」 「ああ、美人の尋問なら大歓迎だね。望んだとおり、再会出来たしな」 オークションが始まる前、偶然出会った時の言葉を思い出して、なのはとフェイトは苦笑した。 「それじゃあ、わたしはダンテさんを連れて外で合流してくるから、フェイトちゃんは救護班が来るまでここで待機してね」 「分かった」 「ユーノ君も。わたし達が守る側の人間なんだから、無理はしないで」 「……うん、分かったよ」 なのはの仕事としての言葉に、ほんの僅かな寂しさを感じながらユーノは頷く。 ダンテと共に未だ危険の残る前線へ歩み去っていくかつての少女の背を眺め、彼は昔とは違う自分達の関係を改めて噛み締めていた。 「気をつけて、なのは……」 その時、その瞬間、異なった場所で多くの出来事が歯車のように連動して動き出していた。 ただ一つ、ヴィータの立つ光の届き切らない薄暗い空間を除いて。 ホテル<アグスタ>の地下駐車場は、外の喧騒から隔離されているかのように音の死んだ静寂に満ちていた。 「野郎……」 ヴィータは視線を落としたまま悪態を吐いた。それは彼女の足元に広がるモノのせいだった。 血だ。 正確には死体と血だった。 このホテルの警備員の服を着た幾つもの肉の塊が、暗闇の中にあってどす黒い血の海に沈んでいた。 散らばったパーツを集めればきっと人間が出来るに違いない。原形を留めぬほどバラバラにされた憐れな死体だった。 自分の考え得る最悪の事態が起こったのだとヴィータは悟った。 ホテルへの搬入口のある地下の更なる奥。死んだ血と肉の放つ臭いはそこからも漂ってくる。 ヴィータはすぐさまデバイスの通信機能をOFFにした。非常灯だけが照らす暗闇の中、集中を乱す邪魔を入れたくない。 血溜まりに足を踏み下ろし、びちゃっと響く不快な水音を無視して歩みを進めた。 本来ならパニックに陥るような惨状の中、ヴィータの思考は逆に冷たく、静かになっていく。 無血鎮圧を第一とし、非殺傷設定によってそれを成す管理局の魔導師は生々しい死への耐性が足りない。もし新人達ならば、この場で冷静ではいられなかっただろう。 しかし、ヴィータは古代ベルカの騎士であった。 人が死ぬ時、必ず安らかに眼を瞑ったまま逝けるのではないことを知っていた。人は、何処までも汚く殺せる。 そういう意味で、この場に転がる死体はむしろ綺麗だとすら感じた。 (一人も、生きちゃいないのか……?) また一つ、死体を見つけた。 体から離れた位置にある腕がハンドライトを握り締め、別の場所に転がる自分の頭を照らしている。 その死に顔は苦悶のそれではなく、ただぼんやりとした驚きだけがあった。 自分の死にも気づいていないような呆けた表情が逆に不気味ですらある。 しかし、ヴィータの気を引いたのはその死相ではなく、この死体を生み出した手段だった。 (すげえ断面だ。シグナム並の腕じゃねぇか) 戦士としての純粋な感性が、不謹慎にも目の前の死に対して感嘆を漏らしていた。 何らかの刃物による切断。死因はそれに違いない。しかも、相手に苦痛を感じさせる間もなく一瞬で人体をバラバラにするような斬撃だ。 柔らかい人肉を、鉱物を切るように鋭利な平面で切り分けている。『斬った』というより『スライスした』という表現が相応しい。まるでトマトのように。 (雑魚とは違うか……) グラーフアイゼンを握り締める手に、力と緊張が加わった。 自分の戦った有象無象の<悪魔>どもに出来る芸当ではない。 何らかの大物が待ち構えている―――半ば確信した警戒心を抱き、ヴィータは更に足を進めて行く。 敵がもう立ち去った、などと楽観的な考えは欠片も浮かばなかった。 この奥には何かが居る。進むごとに増していく、ただ存在するだけで発せられる圧迫感のようなものが感じられるのだ。 死臭が強くなり、終着が近いことを示していた。 物音が聞こえる。 何かを漁るような音だ。やはり、敵の目的はオークションの品物か? 足音と気配を殺して、並び立つ支柱に隠れながら近づき、ヴィータはついに辿り着いた。 一台の輸送車の近くに転がる死体。おそらく二人分だ。血とパーツの量が多い。 輸送車の二台は扉が鋭角に切り開かれている。周囲には投げ捨てられたコンテナが幾つも転がっていた。 その荷台の前に佇む、人影が一つ。 「――動くな。両手を見せながら、ゆっくりと振り返れ」 完全に背後を取れる位置に立ったヴィータは、静かく端的に告げた。 人影の小刻みな動きが停止する。 やはり何かを探していたらしい、コンテナに差し入れていた手をゆっくりと取り出すと、そのまま力なく垂れ下がった。 「頭の位置まで上げろ」 ヴィータは再度命令したが、その人影は従わなかった。代わりに背を向けながらも自分に発せられる殺気が感じられる。 コイツは降伏なんて考えちゃいない――ヴィータはそう悟ったが、不用意に攻撃的になることはなかった。 現状、自分は有利な位置にある。それを確保し続ければいい。 何かを仕掛けるつもりなら警戒するべき両手も、ヴィータの位置からはハッキリと確認出来た。 右手は無手。左手には問題の得物を握っている。 鞘の形状からシグナムと同じ片刃の剣。しかし、レヴァンティンより反りが深い。 「振り返れ。ゆっくりだ」 その言葉には、目の前の人影も従った。 足の動き、手の位置、相手の向ける視線の向きまで用心深くヴィータは観察する。 見上げるほどの長身と広い肩幅、そして露わになった服の上からでも分かる屈強な胸板が男であることを示していた。 動きと合わせて揺れるコートの裾。 視線が自分を捉えた瞬間増した殺気と圧迫感。 そして、完全にヴィータと向き直り、その顔を見た瞬間驚愕が冷静さを吹き飛ばした。 「お、お前……っ!?」 見開いた眼に映る男の顔は、信じられないことにヴィータにとって見知ったものだった。 「例の<アンノウン>と同質の魔力反応です! でもこれは……数値が桁違いです!」 「極小規模の次元震を感知! 信じられません、数メートルの範囲内で安定、継続して起こっています!」 「数メートル……『あの化け物』の体格とほぼ同じか」 矢継ぎ早に届く報告を必死に脳内で処理しながら、グリフィスはモニターを睨み付けた。 たった今出現した反応の出所がそこに表示されている。 リニアレールでの事件以来、サーチャーに改良を加えることでノイズ交じりとはいえ不可解な映像妨害を克服したモニターが可能になっていた。 センサーに何の前触れもなく出現したソレは、対峙するティアナ達を大きく上回る巨躯で佇んでいる。 牛の頭と人間の肉体を持つ、全身を炎で包まれた化け物――信じ難い存在が現実に具現していた。 「次元空間の航行や転送を行う際の波長にも似ています」 「というと、あの怪物は他の次元世界から転送されて来たのか?」 「『された』というよりも、今も転送『され続けている』と表現した方がいいような――」 「なんだ、それは? …………アレは、本来現実に存在しないものが無理に存在し続けている?」 グリフィスは自分でも支離滅裂な言葉だと思いながらも、その表現が最も正しいように感じた。 これまで確認された<アンノウン>は、倒れた後に例外なく消滅する。まるで最初からこの場には存在していなかったかのように。 それが正しい認識であったとしたら? 本来この世界に存在出来ないはずのものが何らかの切欠や力によって現れ、力尽きることによって再び元の場所へ還されて行くのだとしたら? ――だとすれば、あの化け物どもが本来居る筈の世界とは一体どんな場所なのか? 次元空間にすら隔てられず、現実と夢の境のように決して越えられないのに紙のように薄い境界――その先に存在するというのか。 「馬鹿な……」 言葉とは裏腹に、グリフィスは滲み出る嫌な汗を拭った。 これ以上考えても混乱するだけだ。今は、状況に対処しなくては。 「ヴィータ副隊長は?」 「残存勢力探索の為、地下に向かいました。通信はカットされています」 「呼び出し続けろ。探索が終わり次第、スターズFの援護に」 思考を切り替えたグリフィスに応じるように、はやての通信モニターが展開された。 『状況は把握した。現場にはなのは隊長が向かっとるから、スターズFには専守防衛を命じて到着まで持たせるんや』 「しかし、これを相手に援護も無く、新人だけでは……っ!」 『敵の奇襲の恐ろしさはさっき分かったやろ。後手の対応に回る以上、配置は下手に動かせん』 はやての声は平静そのものだったが、内心では予想外の出来事の連続に頭を抱えているだろうとグリフィスには予想出来た。 人情家の部隊長は決して指揮者向きの性格ではないが、だからこそ自らへの厳しい戒めによって冷徹であり続けようとする。 ならば自分に出来ることは、違える事無く命令を下し、前線の者達に出血を強いるだけだ。 「<アンノウン>動き出しました! スターズFと交戦開始!」 「――防御に徹し、<アンノウン>をその場に繋ぎ止めろ。ホテルには絶対に近づけるな。その命を賭けてでも!」 部隊長の言葉を代弁するグリフィスの命令が厳かに下された。 「ティア、来るよ!」 動き出した燃える山のような牛の化け物を見て、スバルは傍らのパートナーに悲鳴のような警告を発した。 正直、スバルの心には不安と恐怖しかなかった。 幼い頃に出会った炎の怪物は、あの時と変わらず――むしろあの時よりもハッキリとした存在感を持って目の前に敵として立ち塞がっている。 得体の知れない恐怖が全身を支配し、こんな時自分を支えてくれる筈のパートナーは先ほどから様子がおかしい。 唐突に突き付けられたティアナの過去の真実と、初めて見た彼女の豹変振りが思考をかき乱して、スバルから冷静さ奪っていた。 今の彼女を戦場に繋ぎ止めているのは、課せられた任務に対する使命感だけだ。 見た目通りの闘牛のような勢いで突進してくる炎の塊を前に、スバルはそれ以上言葉を続けられず、咄嗟に回避行動を取った。 一瞬早く、ティアナもその場から跳び退いている。 しかし、二人の意思は噛み合わなかった。 意図せず互いに正反対の方向へ跳び、ティアナを案じていたスバルとは違い、ティアナは自身で躊躇わず判断した。 それが、二人の行動の暗明を分けた。 「うわぁああああっ!?」 すぐ傍を駆け抜けていくバックドラフトのような高熱の風。二人とも直撃回避は成功させていた。 しかし、全身に纏わりつく炎の余波にスバルは悲鳴を上げる。 恐怖による竦みと一瞬の判断の遅れが、スバルの足を引いたのだ。 荒れ狂う熱と風に吹き飛ばされ、地面を転がるスバルをティアナは一瞥もしなかった。 「<悪魔>がぁ……っ」 炎の悪魔を睨みつける瞳には怒り。 だがそれは、仲間を傷つけられたなどという優しさに基づいたものではなく。 「邪魔をするな!」 炎の向こうへ消えた仇に届かぬ無念と絶えぬ憎悪。 邪魔をするなら死ね。 立ち塞がるなら死ね。 <悪魔>は全て――滅んで果てろ! 「邪魔を」 カートリッジ、ロード。 「するなァァァーーー!!」 体の奥から吹き上がる感情の嵐をそのまま吐き出す。 クロスミラージュが銃身を加熱させ、銃口はでたらめに吼えまくって、憎しみの弾丸を凄まじい勢いで発射し続けた。 高圧縮された魔力弾が敵の強固な皮膚を突き破り、確実に体内へ潜り込んでいく。 しかし、巨大な体格はただそれだけでティアナの魔力弾の威力を散らした。単純に効果範囲が狭い。弾丸が小さすぎる。 カートリッジ一発分の弾丸を撃ち尽くしても、揺るぎもしない敵の巨体を見上げ、ティアナは舌打ちした。 振り返る炎の山。その両腕に全身の覆う火炎が集束し、物質化するという在り得ない現象が起こる。 炎が形作った物は、その体格に見合うほど巨大なハンマーだった。 外見だけで鈍重な速度と、それに反比例するとてつもない威力が想像出来る。直撃すればダメージどころか原形も留められない。 その凄惨なイメージを思い描いて、しかしティアナは笑う。 いつだって笑ってきた。追い詰められた時でも不敵に、アイツのように。 ――その笑みが、いつも思い描くダンテのそれとは全く異なる凄惨なものだということに、ティアナ自身は気付いていない。 《GYYYYAAAAAAAAAAAAA!!》 この世界の何処にも存在しない怪物の雄叫びが響いた。 ハンマーを振り上げ、地響きを起こしながら敵が迫り来る。 眼前で、燃え盛る塊が振り下ろされた。 「デカブツがっ!」 隕石が自分の真上から落下してくるような圧迫感に悪態を吐きながら、ティアナは横っ飛びする。 《Air Hike》 更にもう一段。クロスミラージュの生み出した足場を蹴って、空高く飛翔した。 そして、爆音。 ティアナの立っていた場所を振り下ろされたハンマーの先端が抉り取る。 インパクトの瞬間響いたのは比喩ではなく、爆発と同じ音と衝撃だった。破裂するように着弾点から炎が噴き出し、周囲を焼き尽くす。 二度のジャンプで大きく距離を取っていなければ、ティアナも余波で火達磨になっていただろう。 《Snatch》 だが判断ミス一つで直結する死に、ティアナは何の感慨も抱かない。憎しみだけが今の彼女を突き動かす。 空中で放たれた魔力糸のアンカーが敵のハンマーの先端を捉えた。 次の攻撃の為に得物を振り上げる敵の動作に応じて糸を縮め、二つの力に引き寄せられてティアナの体は空中を移動する。 ハンマーが最頂点を描く軌道に達した時、タイミングを合わせてアンカーを解除した。 丁度竿に釣り上げられるような形で宙に投げ出されたティアナは、計算し尽くされた軌道と姿勢制御で地面に着地する。 その位置は、完全に敵の背後を取っていた。 「もらった……っ!」 アンカーを放つ傍ら、魔力を集中し続けていた右腕を、満を持して突き出す。 オレンジから赤へと変わりつつある魔力のスパークが迸り、その凶暴な力の奔流を無防備な敵の後頭部に向けて解き放った。 通常の魔力弾を倍近く上回る破壊力が、振り返ろうとする敵の顔面に直撃した。 次々と炸裂する魔力光の中でへし折れた牛の角が宙を舞う。 確かな手応えにティアナは残虐な笑みを浮かべ――光の中から真っ赤な炎が一直線に噴き出して来た。 《Round Shield》 咄嗟にクロスミラージュの展開したシールドが火炎放射の直撃からティアナを守った。 しかし、片目と角を失いながらも口から炎を吐き出す敵の反撃は、シールドごとティアナを飲み込もうと、濁流のように噴き出し続ける。 「ぐ……がぁあああああああああああ゛あ゛ああ゛あああーーーっ!!」 シールドを維持しながら吐き出す苦悶の声はすぐに悲鳴へと変わっていった。 確かに展開した壁によって炎の直撃は避けている。しかし、遮られた炎が消えるわけではないのだ。 拡散し、周囲の空気を焼き尽くした炎は間接的にティアナを蝕んでいた。 相手の魔力を弾くタイプの防御であるシールドは、炎や冷気のような流動的な攻撃を完全には防げない。 更に、魔力によって形成された炎は全身を覆うフィールド系の障壁ともいえるバリアジャケットすら侵食する。耐熱効果など気休めにしかならなかった。 血液が沸騰して湯気となり、皮膚を突き破ると錯覚するような激痛が全身を襲い続ける。 地獄のような時間を、ティアナはただひたすら耐えた。 魔力も体力も、精神力さえ消耗していく中、憎しみと殺意だけが無尽蔵に膨れ上がる。 「殺……して、やるぅ……っ!」 ティアナの執念が、無限に続くような地獄を切り開いた。 高熱の奔流が去った後、周囲が焼き尽くされた中で尚もティアナは立っていた。 「――カートリッジ、ロード!!」 唾さえも蒸発して掠れた声。それでもハッキリと戦意に満ちた叫びが響いた。 クロスミラージュに残されたカートリッジを全てロードする。 今のティアナにはこれだけの魔力を制御する技術は無い。しかし、今必要なのはあの巨体を貫けるだけの純粋なパワーだ。 引き攣った皮膚の下、苦痛を伴って全身を駆け巡る魔力と共に、残された自分自身の魔力もかき集めて両腕に集束する。 ティアナはただ集中した。 視線の先で、再び敵が体当たりを敢行しようと動き出しても。 ティアナはただ信じた。 ――自分だけの持つ力を弾丸に込める。それは必ず敵を打ち倒す。 「あたしの力は、<悪魔>なんかに負けない!!」 どれほど歪んでも、我を忘れても、心に残り続けていた信念を支えに、ティアナは決死の表情で眼前の敵を睨みつけた。 炎の塊が猛スピードで迫り来る中、回避など考えずに、ただ敵を撃ち抜くことだけに集中する。 「やめろぉっ!!」 結末の決まりきった無謀な激突を止めたのは、復活したスバルだった。 青白い<ウィングロード>が突進する真っ赤な巨石に向けて真っ直ぐに伸びる。その上をスバルは我武者羅に駆けた。 体の痛みや恐怖を忘れ、悲壮なまでの覚悟とそれに応じたマッハキャリバーの力によって疾走する。 「リボルバー、シュートォォーーーッ!!」 本来なら遠距離用の魔法を、敵と接触する寸前の零距離で発動させる。 炸裂した衝撃波が纏った炎を吹き飛ばし、同時にその突進を停止させた。 魔力を湯水のように放出し続け、圧倒的な質量の違いを持つ相手にスバルは拮抗する。 「ティ……ティア! 逃げてぇっ!!」 気を抜けば一瞬で弾き飛ばされしまいそうな圧力の中、スバルは必死に背後のティアナへ呼び掛けた。 その悲壮な声を――ティアナは、聞いてなどいなかった。 「うぁああああああああああああああっ!!」 吐き出される魂の咆哮。 暴走する魔力を無理矢理展開した術式で練り上げ、今の自分に使える最大攻撃魔法を発動する。 振り上げた銃口の周囲に、環状魔方陣の代わりとなるターゲットリングが形成され、その一点へ全ての魔力が集結される。 レーザーサイトが標的を捉え、その射線の近くにスバルの姿があることを気にも留めず、ティアナは憎しみで引き金を引いた。 「ファントム・ブレイザァァァーーーッ!!!」 かつてない魔力の奔流が解き放たれた。 放たれた光は一直線に燃え上がる敵の体の中心を目指す。進路上にいるスバルが何も分からずに弾き飛ばされた。 自分を助けた仲間さえ避けず、直進し、ただ破壊するだけの狂気の一撃は狙い違わず<悪魔>を飲み込んだ。 炸裂した魔力光と炎の残滓が撒き散らされる中、直撃を確かめたティアナは凄まじい脱力感に膝を付く。 全ての力を使い切っていた。何もかもあの一撃に乗せた。 ティアナの顔に再び笑みが、力無く浮かぶ。 ただ一色に染まっていた視界は、脱力と同時に他の色を取り戻し始めていた。 現実が見えてくる。 逃がした仇。職務を逸脱した行為。管理局員の身の上で一般人に発砲し、挙句仲間まで背中から撃った。 権力を持つアリウスが訴えれば、自分は機動六課どころか管理局にもいられない。 例えそうでなくても、パートナーを撃った時からもう決定的なものを手放してしまった。 全てが絶望的なまでに現実で、同時にもう何もかもが夢のようにどうでもよくなり始めた。 だから、ティアナは笑う。笑ってやる。 どんな時でも。 それしか出来なくても。 「……スバル」 顔を動かすのも億劫な脱力感の中、視界に倒れたスバルを見つけて未練たらしく声が漏れた。 彼女をあの様にしたのは自分だ。 もう何も取り戻せない。 それでも、ティアナはスバルの元へ駆け寄ろうと足に力を入れ、 《GYYYYAAAAAAAAAAAAA――!!》 「え」 二度と響かないはずの悪魔の咆哮が聞こえ、見上げた先には片腕でハンマーを振り上げる炎の巨体があった。 成す術も無く眼前に巨大な炎の塊が振り下ろされた。 直撃ではなかったが、先ほども予想していた余波の威力――炸裂と同時に広がった衝撃波と爆炎をティアナは自ら味わうことになった。 力の抜けた体がゴミ屑のように吹き飛ばされ、宙を舞って地面に激突する。 口の中で血と砂の味がした。 「なん……で……?」 ただひたすら疑問だけが頭を掻き回していた。 自分の最高の一撃が、確かに標的に直撃するのが見えた。バリアの類も確認出来ない。当たったはずなのに……。 ティアナは必死の思いで顔を上げた。 視界に捉えた敵の姿は、やはり確かに攻撃を受けた痕があった。 巨体から右腕が消え失せている。ファントムブレイザーの直撃を右手で受けたらしい。先ほどの攻撃が不発だったのも、片手だった為軌道を誤ったのだ。 しかし、それだけだった。 「はぁ……?」 ティアナは性質の悪い冗談を聞いたかのように、引き攣った笑みを浮かべた。 全身全霊を賭けた一撃が。全てを代償にした一撃が。 たった腕一本と引き換えだというのか? 「なによ、それ……」 原因は、何も複雑なことなどなかった。単純明快極まりない。 ――ただ威力が足りなかっただけ。 「なんなのよ……それっ」 自分の引き出せる最高の力が。限界を超えた想いが。なんてことは無い、至らなかっただけなのだ。 それで、一体どうしろというんだ? この単純な問題を解決する方法は? 新しい戦法を考える、敵の弱点を突く、罠を仕掛ける――どれもこれも根本的な解決になどなってやしない。 「畜生……」 倒せるだけの攻撃が出来なければ意味が無い。 それが出来ない自分の力に、意味など、無い。 「ちっきしょぉ……っ!」 拳を握り締め、無力感に打ちひしがれながら、ティアナはただ惨めに呻くことしか出来なかった。 手負いの獣と化した敵が鼻息も荒くティアナににじり寄る。鼻息はやはり炎だった。 ――終わりか。 支えていたものが何もかも折れた。 急激に沈んでいく意識の中、迫り来る死を見上げる。 ――全部、お終いか。 傷付いた体ごと、諦めが全てを沼の底へ沈めようと、下へ下へと引きずり込んでいく。 これ以上上がらない視界の中、敵のハンマーが持ち上がって見えなくなった。一泊置いて、今度こそ確実な死が自分を押し潰す。 それを受け入れようとした、と――。 《Divine Buster》 意識が途切れる寸前、見慣れた桃色の光が視界を満たした。 「シュート!!」 なのはの砲撃が一直線に飛来して、ティアナに振り下ろされる寸前だったハンマーの先端を跡形も無く吹き飛ばした。 「間に合った!」 「ハッハァ、まるでバズーカだな!」 初めて見る高位魔導師の砲撃魔法の威力に、腕の中でダンテが歓声を上げる。 ホテルから文字通り飛び出して、ダンテを抱えたまま飛行して現場に急行したなのはは、その体勢のまま敵の頭上へと急上昇した。 「ティアナをお願いします!」 「任せな」 敵の真上を獲ったところで手を離す。 空中に身を投げ出したダンテは、敵に向かって落下しながら両手のデバイスを突き出した。 「自分で燃えるとはいい心がけだ。ミディアムにしてやるぜ!」 怒りの弾丸が放たれる。 空中で錐揉みしながら真下に向けての速射。ガトリング機構の回転を全身で再現しているようなでたらめな銃撃は、雨となって敵の巨体に降り注いだ。 なのはの射撃魔法が質量なら、ダンテの射撃魔法は物量。湯水の如く吐き出され続ける魔力弾が燃え盛る<悪魔>の肉体を削り取る。 苦悶の叫びを上げながら吐き出された火炎をエアハイクによって回避すると、ダンテはそのままティアナの前へ立ち塞がった。 「……やってくれたな、牛肉野郎。ハンバーガーの具になりな」 傷付き、倒れたティアナの姿を一瞥して、再び敵に視線を向けた時にダンテが浮かべた表情はハッキリと怒りだった。 <悪魔>は須らく敵だ。 そして、目の前の存在はもはや絶対に逃がすことすら許さない敵となった。 倒れたスバルの状態を確認し、なのはもまた彼女を守るように立ち塞がり、確固たる敵意を炎の怪物に向けた。 二人の魔力がお互いのデバイスに集中する。 「Fire!」 「シュートッ!」 真紅の雷光と桃色の閃光が同時に敵へと飛来した。 例えこれを耐えたとしても、二人分の火力で押し切るつもりだった。怪我人を抱えて、下手な機動戦は出来ない。 しかし、敵の対応は予想を超えていた。 燃える山が、空を跳ぶ。 「嘘!?」 「Damn!」 なのはが目を見開き、ダンテは悪態を吐きながらも素早くティアナを抱きかかえてその場を離れた。巨体の落下先はこちらだ。 跳躍したこと自体信じられない大質量が落下し、地面が激震した。 自らがハンマーそのものであるかのように、落下の衝撃と同時に爆炎が撒き散らされる。 背中にビリビリとした振動と高熱を感じながら、ティアナを庇う形で余波を凌ぎ切ったダンテは振り返り様デバイスを突き付けた。 「……ヤバイぜ」 冷や汗と共に再び悪態が口を突いて出た。 敵は既に次の行動に移っていた。 燃え盛る巨体の周囲。その炎に呼応するように、幾つもの魔力の集束が地面に点となって発生していた。それらは丁度敵を中心に円を描いて配置されている。 噴火寸前の火山のように、真っ赤に変色していく魔力の集中点。 「ダンテさん! ティアナ!!」 シールドと内側を覆うフィールドで二重の防御魔法を展開しながら、なのはは絶望的な気持ちでカバーが届かないほど離れた位置に居る二人を見た。 ダンテが同じ真似が出来るほど高度な魔導師とは思えない。下手な防御は重傷のティアナに死に繋がる。 思案する間もなく、敵の周囲を地面の魔力集中点から噴き出した炎の壁が覆った。 そのまま炎の壁は波紋のように周囲350度全方位に向けて広がっていく。 空へ逃げない限り回避も出来ない。防御しか残されていなかった。 ダンテとティアナを案じる中、なのはの視界も炎だけに埋め尽くされる。 「くぅぅ……っ!」 展開した二重の防御が、なのはとスバルをかろうじて守り切っていた。 フィールドによる温度変化阻害効果がなければ、加熱した空気によって、気絶したスバルには更に深刻なダメージが行っていただろう。 単純な魔力攻撃よりも、属性付加されたこの類の攻撃は厄介だ。対処方法も限られる。 果たして、ダンテはこの攻撃からティアナを守れるのか? 不安に急かされる中、なのははダンテ達の居た場所へ視線を向け――そして見た。 炎の中に在って、尚も赤い血のような魔力の瞬きが見える。 フィールドと炎のフィルター越しに、やはり眼の錯覚なのかと疑うしかない中で、しかしなのはは見ることになる。 地獄の業火の中で、決して飲み込まれない真紅の光を放つ一点。 かろうじて見える人影の背中に、<悪魔>のような翼が生えていた。 《―――GUAAAAAAAAAAA!!》 火炎地獄は、敵の悲鳴によって唐突に終了した。 周囲を覆いつくす炎の中から、突如飛来した真紅の魔力弾によって残された眼を潰され、顔面を抑えて無茶苦茶に暴れ回る。 同時に、荒れ狂っていた炎は急速に鎮火しつつあった。 障壁を解除し、なのはは一瞬の勝機を読み違わず正確に捉えた。 「レイジングハート!」 《All right. Load cartridge.》 コッキング音と共に二発分のカートリッジが排夾される。 敵の巨体を見越した高威力の砲撃魔法をセレクトし、なのはは漲る魔力を集束した。 それは、奇しくもティアナが実現し得なかった巨大な敵を撃ち貫けるだけの純粋なパワー。 《Divine Buster Extension》 凶悪な光がレイジングハートの先端に宿る。 「シューーートッ!!」 通常のディバインバスターから発展・向上した貫通力と破壊力が唸りを上げて襲い掛かった。 圧倒的な密度と量を誇る魔力が巨体の上半身を飲み込み、消し飛ばす。 今度は<悪魔>が『原形を留めないほどの威力』を味わう番だった。 跡形も無くなった半身。足だけになった敵は、全身を覆っていた炎を自らの活動と共に停止させ、冷えてひび割れた鉄のように黒ずんで、やがて崩れ落ちた。 ヒュゥ、という口笛が聞こえ、見るといつの間にかダンテが炎に飲まれる前と同じ位置に立っていた。 彼自身にも倒れたティアナにもダメージは見られない。何らかの力で守り切ったらしい。 あの攻撃をどうやって退けたかは分からない。 やはり、あの真紅の光は錯覚だったのか。あの姿は見間違えだったのか。それとも――。 まあいい。全ては後回しだ。なのはは疑念を棚上げすることにした。 「……こちら、スターズ1 <アンノウン>の撃破に成功しました。スターズF両名負傷、すぐに救護を寄越してください」 やはりいつものように、交戦を終えた後は何の痕跡も残さない敵の特性のまま、完全な静寂を取り戻した空間でなのはは本部に通信を繋げた。 一方のダンテは、全身を襲う軽い脱力感をおくびにも出さず、デバイスを納めて背後を振り返った。 「とんだ再会になっちまったな……」 傷付き、眠るティアナに届かない言葉を掛ける。 目を閉じた横顔は決して穏やかなものではなく、気絶する前に抱いた悔しさに歪んでいた。 眠る時にすら安らぎは無いのか。あまりに不器用な生き方を続けるティアナの姿に、ダンテは困ったように笑うしかない。 視線を移せば、<悪魔>は完全に消滅している。 ティアナには荷の重い相手だった。上位悪魔の具現化など<この世界>に来て初めてのことだ。 おそらく管理局にとって最も大きな<悪魔>との戦いはたった今終わった。 しかし。 管理局との本格的な接触、より大規模になりつつある<悪魔>どもの活動――少なくとも、ダンテにとってこれは何かの始まりに過ぎなかった。 確実に敵と断定できる男を相手に面と向かい合い、ヴィータは凍りついたように動けなくなっていた。 それほどまでに、目の前に立つ男は――その男の顔は彼女に衝撃を与えたのだ。 忘れたくても忘れられない。 悪夢のような夜に出会い、最悪の遭遇をちょっとした奇跡の対面だったと思わせてしまう男。 襲い掛かる闇の中に在って<彼>の浮かべる笑みは、戦いの中では頼もしく、平穏の中では刺激を感じる。 純粋に、また会いたいと思った。 言葉を交わし、互いを知り合えば、きっと友人になれる――ヴィータがそう思うほどの男が、何故か今目の前に立っている。 「なんでだよ……?」 だが、こんな形の再会を望んだワケじゃない。 「……<ダンテ>」 闇の中にあって酷く映える銀髪と、何者にも屈しない瞳を持ったその顔を呆然と眺め、ヴィータは呆けたように呟いた。 服装と髪型は変わっているが、その顔は間違いなくあの夜眼に焼き付いた物と同じだ。 ただ一つの違和感――彼の性格を主張する不敵な笑みが、その顔には欠片も浮かんでいないということを除けば。 「――ダンテ?」 僅かに訝しがるような反応が返ってきた。 聞き慣れない低い声色に、ヴィータは我に返る。 目の前の存在を呆然と受け入れていた心に、猛烈な違和感が湧き上がってきた。 何かが違う。果たして、ダンテはこんな声を出していたか? 会話をリズミカルに弾ませるものではなく、鋼のように一方的な声を。 「そうか」 一言発する度に、重なり合っていたダンテと目の前の男がズレていく。 一人、何かに納得するような呟きを漏らすと、男は僅かに笑みを浮かべた。 ヴィータの全身が総毛立つ。今や、彼女は完全にダンテと目の前の存在を別物と断じていた。 形ばかりで何の意味もない笑みの形。正しく冷笑と呼べるそれは、ダンテが浮かべるものでは決してない。 「テメェは……誰だっ!?」 ヴィータは咄嗟に身構えた。本能が告げる。この男に隙を見せてはならない。 しかし、彼女の動揺は男にとって十二分な隙となった。 男が左手を振り上げる。あまりに無造作なその行為に、ヴィータは一瞬反応出来なかった。 男は風が吹くのと同じように一切の感情や意図を排して自然な動作で手の中の得物を放していた。 丁度、自分に向けて投げ渡されるように飛んで来る武器。それに意識を逸らされ、ヴィータは半ば無意識に手を伸ばして掴み取っていた。 そこからは一瞬の出来事だった。 意識を男に戻した時、既に彼は動いていた。ヴィータとの間合いを音も無く瞬時に詰める。シグナムが得意とする斬撃の踏み込みに匹敵する超高速の初動だった。 鞘の部分を掴んだままヴィータの手の中にある剣を、そのまま素早く引き抜く。 露わになった刀身は波紋を持つ片刃。<日本刀>の型を持ちながら、ただの鋼ではない全く異質な雰囲気を持つ武器だった。 闇の中に銀光が閃き、ヴィータ自身にさえ視認する間もない速さで刃が走る。 それが、腹部を貫いた。 「が……っ! ぶっ」 肉を裂く音と共にヴィータの小柄な体が無残にもくの字に折れ曲がる。 血が喉を逆流して、食い縛った口から外へ溢れた。 バリアジャケットを易々と貫通し、刀は完全にヴィータを串刺しにしている。 「テ、テメェ……は……っ」 グラーフアイゼンが音を立てて主の血に濡れた地面へ転がる。 ヴィータは必死に男を見上げた。ダンテと同じ作りの顔に冷酷さが加わり、無慈悲な変貌を遂げた眼光が淡々とこちらを見下ろしている。 ヴィータは初めて戦慄した。 あの時頼もしいと感じたダンテの力を、全く反対のベクトルに変えて備えた存在が眼の前に居る。この<敵>は危険だ。 「何……なん、だっ!」 苦悶の中に決死の覚悟を宿しながら、ヴィータは自分の腹に突き刺さった刀身を握り締める。 懸命なその姿を、しかし男は嘲笑いもせず、ただ冷徹な意思のまま刀を更に奥へと抉り込こんだ。ヴィータが激痛に喘ぐ様を尻目に、肩を掴んで無造作に刀を引き抜く。 広がった傷口から血が噴き出し、ヴィータは自らの血溜まりに力無く倒れ込んだ。 「ダンテ……奴も<この世界>にいるのか」 僅かに愉悦を含んだ独白を漏らし、力を無くしたヴィータの手から取り返した鞘に刀を収める。 倒れた彼女にはもはや一瞥もくれず、輸送車の荷台に戻ると、探していた物を取り出した。 それは赤い宝石をあしらったアミュレットだった。 死の静寂を取り戻した闇の中、ただじっとそれを見つめる男の視線には何処か感慨深いものが感じられる。あるいは第三者が見ればそう錯覚するかもしれない、長い沈黙だった。 『――目的の物は手に入ったかね?』 不意に、その沈黙は破られた。 男の傍らに出現した通信モニターにはスカリエッティの姿が表示されている。 彼の視線から隠すように、男はアミュレットを懐に忍ばせた。 「……ああ」 『これで、君の探し物が一つ見つかったワケだ』 「ああ」 『では、すぐに退散した方がいい。アリウス氏も目的を達したようだ。彼の置いていった目晦ましはたった今倒されたよ』 「分かった」 『では。寄り道をしないで戻って来てくれると助かる――<バージル>』 通信が切れると、バージルはすぐさま踵を返して、予め告げられた撤退ルートに向けて歩き出した。 闇の中に彼の姿が消え、やがてその靴音も聞こえなくなると、本当の静寂が暗闇と共に辺りを満たした。 もはやピクリとも動かなくなったヴィータの傍らで、グラーフアイゼンの通信機能がONになる。 『ヴィータ副隊長、救援要請が出ていますが!? ……副隊長、応答してくださいっ!』 通信を繋いだのはデバイスのAIが主の危機に際して独自に判断して行ったものだったが、もはや通信の意味は無くなっていた。 オペレーターのシャリオが異常事態を察して必死に呼びかける声にも、倒れ伏したヴィータは応えない。 主の生命反応が徐々に低下していく事態を感じ取りながら、グラーフアイゼンはただひたすら緊急信号を発し続けることしか出来なかった。 『お願いです、応答して下さい! ヴィータ副隊長! 応答して――!』 to be continued…> <ダンテの悪魔解説コーナー> フレキ ゲリ(DMC2に登場) 犬の系統にある動物ってのは総じて忠誠心が高いと言われてる。忠犬を主役にした映画やアニメは結構在るよな。 <悪魔>ってのはその対極にあると言っていい。 奴らにあるのは力の有無だけだから、どいつもこいつも好き勝手に喰い合って、強い弱いで生きる死ぬが決まっちまう。まあ、分かりやすいといえば分かりやすい弱肉強食だ。 そんな自分勝手な奴らの中でも変わった<悪魔>ってのはいるもんだ。それがこの二匹だ。 <悪魔>でありながら同じ<悪魔>に付き従う、珍しい忠誠心を持った忠犬ならぬ忠狼ってワケだ。 従属心が強いせいか、他の<悪魔>のように好き勝手暴れることがない。御主人様が別に居るとはいえ、忠誠に値するなら人間にも一応従うみたいだしな。 人間サイズの大きな体格とそれに見合わない素早さが、狼そのものって感じの単純な攻撃パターンを強力なものにしてやがる。 おまけにコイツらは必ず二匹行動するらしい。狼の狩りのように鋭いコンビネーションは決して油断できないぜ。 なかなか厄介な相手だが、こんな奴らさえ付き従える<悪魔>ってのは更に厄介極まりない相手なんだろうな。 前へ 目次へ 次へ
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コスチューム一覧 コスチューム名 画像 蝶のドレス 入手条件 初期所持 白蝶のワンピース 入手条件 難易度「Beginner」以上で「街道を外れた森の入り口」をクリアする。 ベリー衣装 入手条件 難易度「Beginner」以上で「オークの拠点」をクリアする。 ルーンナイト 入手条件 難易度「Beginner」以上で「スライムのうろ穴」をクリアする。 騎士団制服 入手条件 難易度「Beginner」以上で「強襲の細道」をクリアする。 パッションサマー 入手条件 難易度「Beginner」以上で「謁見の間」をクリアする。 リナリアのドレス 入手条件 難易度「Beginner」以上で「最後の戦い」をクリアする。 チーパオ 入手条件 難易度「Beginner」以上で「最後の戦い」をクリアする。 ルミエールドレス 入手条件 難易度「Beginner」以上で「記憶の洞」をクリアする。 ブレイブナイト 入手条件 難易度「Normal」以上で「魔剣の記憶」をクリアする。
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┃コスチュームOP 名称 職業 オプション 高級猿コスチューム ナイト、Dナイト、バギ、Hバギ、アロ 全ての攻撃力 +10%、ラック +100、クリティカル確率 +5%、経験値追加獲得 +40% 力+50 ハンター 敏捷+50 マジ、BW 精神+50 セグナレ、ケンセラ 敏捷+35 精神+35 サマナー、セグリパ 力+35 精神+35 最高級魔女コスチューム ナイト、Dナイト、バギ、Hバギ 全ての攻撃力 +20%、防御力 +9%、クリティカル確率 +15%、ラック +150、移動速度 +10% ブロック確率 3% ハンター、マジ、セグナレ、セグリパ、BW ダメージ減少率 4% サマナー、ケンセラ 召喚獣とダメージ共有 5% アロケン スペル発動確率増加 5% 魔女コスチューム 共通 すべての攻撃力 +15%、最大HP +5000、ラック +300、クリティカル確率 +5%、経験値追加獲得 +50%、モンスターダメージ耐性増加 +10% 齊天聖人 コスチューム 共通 最大HP +9000、移動速度 +25%、ラック +220、モンスターダメージ耐性増加 +17%、すべての攻撃力 +18%、経験値追加獲得 +60% 齊天大聖 コスチューム 共通 最大HP +8000、移動速度 +18%、ダメージ減少率 +8%、状態異常抵抗確率 +5%、PK / PVPダメージ耐性増加 +5%、すべての攻撃力 +18% 猿コスチューム 共通 すべての攻撃力 +12%、ラック+120、モンスターダメージ耐性増加 +5%、PK / PVPダメージ耐性増加 +5%、移動速度 +12% 黒騎士 コスチューム 共通 すべての攻撃力+15%、最大HP+15%、ラック+100、クリティカル確率+15%、ダメージ減少率+5%、移動速度+10% 最高級忍者 コスチューム ナイト、Dナイト、バギ、Hバギ 近接攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、力 +100、ブロック確率 +3%、経験値追加獲得 +70% ハンター 近接攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、敏捷 +100、状態異常抵抗確率 +8%、経験値追加獲得 +70% マジ 近接攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、精神 +100、状態異常抵抗確率 +8%、経験値追加獲得 +70% サマナー 近接攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、力 +70、精神 +70、召喚獣とダメージ共有 10%、経験値追加獲得 +70% セグナレ 近接攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、敏捷 +70、精神 +70%、状態異常抵抗確率 +8%、経験値追加獲得 +70% アロケン 近接攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、力 +100、スペル発動確率 +5%、経験値追加獲得 +70% ケンセラ 近接攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、敏捷 +70、精神 +70、召喚獣とダメージ共有 10%、経験値追加獲得 +70% セグリパ 近接攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、力 +70、精神 +70、状態異常抵抗確率 +8%、経験値追加獲得 +70% BW 近接攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、精神 +100、状態異常抵抗確率 +8%、経験値追加獲得 +70% 最高級海賊 コスチューム ナイト すべての攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、力 +100、ブロック確率 +3%、経験値追加獲得 +70% ハンター すべての攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、敏捷 +100、状態異常抵抗確率 +8%、経験値追加獲得 +70% マジ すべての攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、精神 +100、状態異常抵抗確率 +8%、経験値追加獲得 +70% サマナー すべての攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、力 +70、精神 +70、召喚獣とダメージ共有 10%、経験値追加獲得 +70% セグナレ すべての攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、敏捷 +70、精神 +70、状態異常抵抗確率 +8%、経験値追加獲得 +70% バギ すべての攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、力 +100、ブロック確率 +3%、経験値追加獲得 +70% アロケン すべての攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、力 +100、スペル発動確率 +5%、経験値追加獲得 +70% ケンセラ すべての攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、敏捷 +70、精神 +70、召喚獣とダメージ共有 10%、経験値追加獲得 +70% セグリパ すべての攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、力 +70、精神 +70、状態異常抵抗確率 +8%、経験値追加獲得 +70% BW すべての攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、精神 +100、状態異常抵抗確率 +8%、経験値追加獲得 +70% Hバギ すべての攻撃力 +20%、ラック +150、クリティカル確率 +10%、力 +100、ブロック確率 +3%、経験値追加獲得 +70% 暗黒中世コスチューム ナイト すべての攻撃力 +20%、最大近接攻撃力 +350、ラック +150、クリティカル確率 +15%、 最大HP +1500 ハンター すべての攻撃力 +20%、最大遠距離攻撃力 +350、ラック +150、クリティカル確率 +15%、 近距離ダメージ抵抗 +3% マジ すべての攻撃力 +20%、最大魔法攻撃力 +350、ラック +150、クリティカル確率 +15%、 近距離ダメージ抵抗 +3% サマナー すべての攻撃力 +20%、最大近接攻撃力/最大魔法攻撃力 +350、ラック +150、 クリティカル確率 +15%、召喚獣とダメージ共有 4% セグナレ すべての攻撃力 +20%、最大遠距離攻撃力/最大魔法攻撃力 +350、ラック +150、 クリティカル確率 +15%、近距離ダメージ抵抗 +3% バギ すべての攻撃力 +20%、最大近接攻撃力 +350、ラック +150、クリティカル確率 +15%、 最大HP +1500 アロケン すべての攻撃力 +20%、最大近接攻撃力 +350、ラック +150、クリティカル確率 +15%、 スペル発動確率 +4% ケンセラ すべての攻撃力 +20%、最大近接攻撃力/最大魔法攻撃力 +350、ラック +150、 クリティカル確率 +15%、召喚獣とダメージ共有 4% セグリパ すべての攻撃力 +20%、最大近接攻撃力/最大魔法攻撃力 +350、ラック +150、 クリティカル確率 +15%、近距離ダメージ抵抗 +3% BW すべての攻撃力 +20%、最大魔法攻撃力 +350、ラック +150、クリティカル確率 +15%、 近距離ダメージ抵抗 +3% Hバギ すべての攻撃力 +20%、最大近接攻撃力 +350、ラック +150、クリティカル確率 +15%、 最大HP +1500 プレミアムコスチューム 共通 HP+1500、防御+4% 一般DK 共通 DK攻撃力 +10%、最大HP +3000、破壊 +350、PK/PVPダメージ耐性 +4%、 DKすべての属性抵抗力 +5%、PKシールド回復力 +7500 高級DK 共通 DK攻撃力 +15%、最大HP +5000、破壊 +690、PK/PVPダメージ耐性 +5%、 DKすべての属性抵抗力 +10%、PKシールド回復力 +10000 海賊S 共通 近接攻撃力、魔法攻撃力、遠距離攻撃力+20% 、状態以上抵抗確率+5%、 クリティカル抵抗+7%、ラック+150 海賊A 共通 近接攻撃力、魔法攻撃力、遠距離攻撃力+10% モンスターダメージ耐性増加+5%、防御力+5%、ラック+100 海賊B 共通 近接攻撃力、遠距離攻撃力、魔法攻撃力+5% モンスターダメージ耐性増加+2%、防御力+3%、ラック+50 浴衣S 共通 HP+5000、クリティカル+420、クリティカル確立+8%、クリティカルダメージ+8% [A]礼服S 共通 力+50、敏捷+50、精神+50、体力+50、最大HP+7%、最大MP+7% [A]スイムウェアS 共通 力+50、敏捷+50、精神+50、体力+50、最大HP+7%、最大MP+7% [A]ホラー ナイト 近接攻撃力+5%、命中+400、ラック+75 ハンター 遠距離攻撃力+5%、命中+400、ラック+75 マジ 魔法攻撃力+5%、命中+400、ラック+75 サマナ(剣) 近接攻撃力+5%、命中+400、ラック+75 サマナ(杖) 毒攻撃力+5%、命中+400、ラック+75 セグ 呪い攻撃力+5%、命中+400、ラック+75 バギ 近接攻撃力+5%、命中+400、ラック+75 アロ 近接攻撃力+5%、命中+400、ラック+75 ケンセラ(剣) 近接攻撃力+5%、命中+400、ラック+75 ケンセラ(杖) 毒攻撃力+5%、命中+400、ラック+75 リパ 呪い攻撃力+5%、命中+400、ラック+75 BW 魔法攻撃力+5%、命中+400、ラック+75 Hバギ 近接攻撃力+5%、命中+400、ラック+75 [A]ホーリープレート 共通 最大HP+10%、防御力+7%、治癒力増加+10%、クリティカル+250、ラック+120、命中+120 [A]ダークプレート 共通 最大MP+10%、近接攻撃力+7%、魔法攻撃力+7%、クリティカル+250、ラック+120、命中+120 [A]グロウズプレート 共通 すべての攻撃力+5%、最大HP+3000、力/敏捷/精神 +20、経験値追加獲得+5% ┃未実装コスチューム? (韓国公式パッチより) 名称 オプション 追加 14/11/11 (イベント景品) 黒子コスチューム すべての攻撃力+15% 最大HP +15% 活力+100 クリティカル確率+15% ダメージ減少率 5% 移動速度+10% ※モンスター討伐時一定確立で5分、 すべての攻撃力5%、 クリティカル確率5%、 クリティカル ダメージ5% 14/10/27 (期間限定 課金) 忍者コスチューム ニュータイプ忍者コスチュームは帰属/永久アイテムで取り引きが不可です。 ※ニュータイプ忍者コスチュームはオプションがないが今後オプションを直接付与できます。 ※付与可能なオプションおよび方法は今後公開されます。 2014/4/22 (課金) 聖騎士 コスチューム 聖騎士 力・敏捷・精神・体力 +15 攻撃力+7%、防御力+5% 神 聖 な 聖 騎 士 ナイト 攻撃力+20% 防御力+9% クリティカル確立+15% 活力+1850 移動速度+10% ブロック確立+3% マジ ダメージ減少率+4% ハンタ ダメージ減少率+4% サマ 召還獣ダメージ共有+5% セグ ダメージ減少率+4% バギ ブロック確立+3% アロ スペル発動確立+5% ケンセラ 召還獣ダメージ共有+5% リパ ダメージ減少率+4% ウィザ ダメージ減少率+4% ハフバギ ブロック確立+3% ※聖騎士コスチューム永久アイテムと神聖な気勢10個をアルデカシナンNPCに返却すれば、‘神聖な聖騎士コスチュームにアップグレードが可能
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No. コスチューム名 HP MP STR VIT INT MEN DEX AGI MOV JMP SEXY CUTE WICKED HEALTH 合計1(HP~AGI) 合計2(SEXY~HEALTH) 合計1+合計2 1 高校生 13 2 5 9 -2 11 -1 3 0 0 2 26 -11 2 40 19 59 2 中学生 16 1 -3 8 1 14 6 -1 0 0 5 12 -7 5 42 15 57 3 小学生 18 0 4 13 -5 5 -2 7 0 1 -16 26 -16 10 40 4 44 4 幼稚園児 17 0 -3 7 2 14 0 0 0 0 -6 42 -42 4 37 -2 35 5 ブルマ 24 -4 9 8 -6 7 -2 4 1 0 8 20 -26 22 40 24 64 6 柔道 18 0 13 8 -2 2 2 2 0 0 -8 8 -22 28 43 6 49 7 剣道 18 0 5 24 0 0 -4 -6 -1 0 -14 -14 0 24 37 -4 33 8 弓道 18 0 3 8 0 0 8 2 0 0 4 0 -4 8 39 8 47 9 チアガール 0 14 4 5 0 11 0 -2 0 1 21 0 -6 0 32 15 47 10 バスケットボール 24 4 5 7 -7 15 6 8 0 1 -2 7 -30 65 62 40 102 11 野球 24 13 8 14 -4 18 -2 2 0 0 -13 26 -13 58 73 58 131 12 ジャージ 18 12 1 11 0 11 3 9 1 0 -27 -27 -27 17 65 -64 1 13 テニス 35 9 5 19 0 28 10 10 0 1 10 0 -20 80 116 70 186 14 教師 0 25 -6 -2 14 14 -5 -1 0 0 26 -15 25 -18 39 18 57 15 バニーガール 0 12 3 4 -2 12 0 -2 0 0 27 10 10 -37 27 10 37 16 メイド 0 28 -8 10 0 18 10 0 0 0 2 28 -4 -12 58 14 72 17 ウェイトレス 0 15 -1 9 0 11 0 0 0 0 -13 26 -15 20 34 18 52 18 大工 11 0 3 9 -1 1 6 -2 0 1 4 -5 -3 12 27 8 35 19 アイドル 6 28 -3 9 12 21 5 -2 0 0 -3 63 -30 18 76 48 124 20 警察官 24 0 8 19 4 10 2 2 0 0 11 9 -46 51 69 25 94 21 スチュワーデス 4 24 3 8 1 20 5 6 0 0 1 -2 -4 49 71 44 115 22 女将 8 18 5 9 0 19 8 8 0 0 -3 26 -5 2 75 20 95 23 レースクイーン 0 23 2 7 4 21 0 2 0 0 55 -25 15 21 59 66 125 24 花嫁 8 37 0 18 4 36 0 0 0 0 45 60 -54 10 103 61 164 25 執事 39 24 18 30 0 0 7 7 0 0 10 0 -20 42 125 32 157 26 応援団 22 35 8 28 5 18 0 -4 -1 0 57 20 -85 62 112 54 166 27 ロッカー 0 47 0 16 18 30 9 3 0 0 67 -50 55 -20 123 52 175 28 シスター 0 22 -11 17 0 22 -3 -3 0 0 0 22 -38 22 44 6 50 29 巫女 0 22 0 4 4 20 -5 -3 0 0 18 40 -37 -4 42 17 59 30 ナース 0 23 -4 6 2 16 -1 -1 0 0 13 32 -29 -4 41 12 53 31 医者 4 32 -11 6 16 22 0 -8 0 0 30 2 18 -15 61 35 96 32 女王様 0 34 8 20 3 -3 2 0 0 0 61 -43 85 -47 64 56 120 33 ニット 14 0 0 13 0 18 0 0 0 0 2 12 0 0 45 14 59 34 ゴシックロリータ 0 12 -1 4 2 15 -2 -2 0 0 -25 30 27 -17 28 15 43 35 ミニ浴衣 4 18 1 7 0 16 2 0 0 0 13 21 0 0 48 34 82 36 チャイナドレス 12 27 0 14 9 34 6 0 0 0 54 18 24 34 102 130 232 37 スクール水着 8 0 -2 3 -3 5 -3 -2 0 0 2 24 -28 22 6 20 26 38 ビキニ 0 6 -1 1 0 10 0 0 0 0 51 -21 7 7 16 44 60 39 魔法少女みみこ 0 31 -14 11 34 34 -10 -10 0 0 -32 81 -34 38 76 53 129 40 宇宙騎士ムラサメ 38 -2 6 41 -2 -14 -5 -9 -1 0 5 10 -8 39 53 46 99 41 宇宙武者マサムネ 44 0 6 54 -4 -21 -8 -8 0 0 -10 -10 -10 45 63 15 78 42 マサムネちゃん 41 10 18 26 2 2 2 7 0 0 19 -14 11 38 108 54 162 43 ミイ 20 0 6 0 -7 23 -7 -7 -1 -1 41 12 51 -40 28 64 92 44 気紛れ妖精 0 31 -7 10 8 29 -2 -2 0 1 30 37 14 13 67 94 161 45 ベル 52 -10 -4 64 -13 -23 -8 5 1 0 -20 0 -40 105 63 45 108 46 幽霊少女 5 22 4 8 4 25 -5 -5 -1 2 -11 -11 74 -23 58 29 87 47 海賊女王 19 4 12 22 -8 1 -2 0 0 0 -2 22 64 -20 48 64 112 48 フェイスレス 0 32 0 15 10 25 -4 -4 0 0 -30 -30 20 -30 74 -70 4 49 電波ガール 14 29 -6 12 12 25 1 1 0 0 -20 62 10 0 88 72 160 50 ねここ兵 16 2 -6 20 2 0 10 6 1 1 -17 13 45 -16 50 25 75 51 ねここ軍曹 30 0 14 35 0 3 7 -2 0 0 19 -8 66 -12 87 65 152 52 ハニービー 26 12 -2 15 8 25 4 2 0 1 -10 45 32 -31 90 36 126 53 ダンスウーマン 12 26 2 22 7 16 7 7 0 0 -22 -27 -22 53 99 -18 81 54 キューピット 0 52 0 12 14 37 2 2 0 1 28 62 -20 20 119 90 209 55 こいのぼり 30 5 -8 30 -8 30 -8 -8 0 -1 -8 22 -8 0 63 6 69 56 バレンタインデー 3 20 -1 12 -2 19 1 1 0 0 -10 52 -10 11 53 43 96 57 ホワイトデー 2 41 2 13 6 24 2 2 0 0 26 34 -5 11 92 66 158 58 おひなさま 20 8 -4 10 4 25 -5 -5 -1 0 0 44 0 14 53 58 111 59 ハロウィン 43 12 -2 11 15 36 0 -4 0 0 -4 58 50 -38 111 66 177 60 サンタクロース 4 31 0 18 0 33 6 6 0 1 39 46 -36 26 98 75 173 61 彦星 47 20 0 13 31 35 4 4 0 0 0 52 0 52 154 104 258 62 織姫 18 45 23 35 0 23 4 4 0 0 52 0 52 0 152 104 256 63 コスプレッド 30 30 10 50 10 50 10 10 1 1 16 34 8 52 200 110 310 64 コスプブルー 30 30 10 50 10 50 10 10 1 1 14 26 12 48 200 100 300 65 コスプイエロー 30 30 10 50 10 50 10 10 1 1 4 28 18 50 200 100 300 66 コスピンク 30 30 10 50 10 50 10 10 1 1 24 26 14 36 200 100 300 67 コスブラック 30 30 10 50 10 50 10 10 1 1 34 8 26 32 200 100 300 68 お姉チャンバラ 38 12 21 25 -10 32 12 18 1 1 50 0 20 20 148 90 238 69 地球防衛軍 54 20 0 50 0 50 15 0 0 2 30 30 30 30 189 120 309 70 双葉理保 20 30 10 34 20 24 -10 10 0 0 30 50 0 30 134 110 244
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「それでは、フェイトちゃんの嘱託魔導師試験合格を記念して・・・」 「乾杯!」 アースラ艦内では、本局で試験を終えたフェイトのささやかな祝賀会が開かれていた。最低限のオペレーター以外は食堂に集合し、そ の主役のフェイトはその中で恥ずかしそうにしつつ、皆に持ち上げられていた。 「あ・・・ありがとございま」 「飲めー!歌えー!騒げー!デストローイ!!!」 「ハイ、ハイ、ハイハイハイハイリンディ提督のちょっといいトコみてみたーい!!!」 「YEAAAAAAAAAAAAAAAAAAHUUUUUUUUUUUUUUUU!!!!」 ささやかと言うには騒ぎ過ぎである。この艦の理性でもあったクロノ・ハラオウンがいないと言う事はこれほどまでに混沌を呼ぶのか。 「どーしたのー?フェイトちゃんの為の宴なのに~」 「リンディ提督、いえ、その・・・うわ、酒臭」 「ぶふ~ん、リンディママに全部話して御覧なさ~い、っていうかなのはちゃんでしょ~?」 「・・・はい」 その時、通信音が響き、ヘッドセットをつけっぱなしのエイミィが出た。 「はいはい~ああ、クロノ君?」 通信に応対するエイミィのさりげない言葉に戦慄が走り、全員が一瞬で凍りつく。 「うん、今フェイトちゃんの試験終わって・・・え?組織の人と連絡取りたい?わかった・・・最寄の電話ボックスと組織の人を繋ぐから」 「組織・・・?」 フェイトがリンディに怪訝な顔をして尋ねる。リンディは少々顔を引き締める。 「ええ・・・クロノとなのはちゃんには今、捜査の依頼が来ていたからそちらに向かってもらっていたの、後数時間で定期連絡が来るだろう し、その時に一度戻ってもらうように言っておきましょうか?」 「いえ・・・大丈夫です、ですが」 フェイトは真っ直ぐにリンディを見つめ、言った。 「私の方から会いにいきます」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ネアポリス市内のケーブルカー 車掌の笛の音が響く。 「ふぇぇー!!待ってぇ!待ってください!」 ドアが閉まりきる前に間一髪滑り込んだなのは、周りの乗客の注目の的となり、軽く誤魔化し笑い。 「危なかったぁ・・・」 「もう少し待ってくれてもいいよね・・・外国の交通はしんどいよ・・・」 席を探すなのはとユーノだがその最中とんでもない人物を見つけてしまった。 「あ」 「あ」 「あ」 先程空港で自分達を騙した人物・・・ジョルノ・ジョバーナと聞いた彼がボックス席にいた。 「えと・・・座ってもいいですか?」 「え?いや、ああ、どうぞ・・・」 ジョルノと向かい合って座るなのは、荷物は通路側に置く。なのはの横の座席にユーノがちょこんと座る。 「君は・・・いや、覚えてないのか・・・?」 「さっき、空港で会った、ジョルノ・ジョバーナさんですよね?」 「・・・ああ、そうだけど・・・」 「荷物・・・無いんですか・・・」 若干落胆した顔を見せるなのは、ジョルノはそこで話を切り出す。 「その・・・さ、こう言うのは何だけど君は危機感が足りないように思えるんだ、僕が泥棒まがいの事をしていると知っているならわざわざ近寄ったりしないと思うし、荷物だって抱えて持つほうが安全じゃないか?」 「じゃあ、また盗むんですか?」 流石のジョルノも頭痛を覚えた。 「出来るなら今やってみてください」 「(なのは・・・ちょっと怒ってる・・・?)」 「(うん)」 念話での会話すら・・・いや、念話だからこそなのはの静かな怒りが伝わってきた。元よりなのはは曲がった事が嫌いであった、如何なる 理由があっても、どんな境遇であろうと、犯罪に手を染める事を許せない、頑固で真っ直ぐな性格であった。 「出来るのなら今すぐに、盗んでみてください」 「・・・なら、遠慮無く」 ジョルノは即座になのはの荷物を掴む、だが、そこまでだった。 「これは!?重い・・・!!」 出発前 「はいこれ、なのはちゃんは女の子だから色々入れなきゃいけないでしょ?盗まれたりするかもしれないし、特性のスーツケースを用意したのよ」 「なのはちゃんの魔力波動を登録すれば他の人には開けるどころか持つ事すら出来ないようにしてみたよ、開けっ放しには注意してね」 「ありがとうございます、エイミィさん、リンディさん」 「提督・・・僕には・・・」 「それじゃあいってらっしゃい」 「・・・はい・・・」 ジョルノは自分の判断が間違っていた事に気付いた。 この少女は・・・危機感が無いのではない。 危機感を持って、あえてこの場所にいるのだ・・・と 「そうか、お前がジョルノ・ジョバーナか・・・」 そんな中、唐突に話しかけてくる男がいた。ケーブルカーの上の方からゆっくりと歩いてくる、おかっぱ頭の男。 「・・・あんた、誰です?」 「あ、すみません、今ちょっと取り込み中なのでお話なら後にして・・・」 なのはの言葉が途切れる、そばで見ていたユーノは男がなのはに向かって手を突き出したのを見た。 「すまないが・・・ちょっと話したい事があってね、少し時間をもらうよ」 男がすぐに手を離した、にも拘らずなのはは口を塞がれたかの様に呻いている。 「むぐッ!?むぐう!!?」 『ジッパー』がなのはの口に縫い付けられている所為で喋れないのだ。 「ば、馬鹿な!?こんな事が・・・」 「ジョルノ・ジョバーナ、率直に聞きたい・・・このような能力を使う者を見た事は無いか?」 「この様な・・・他にも能力を持つ者がッ!!」 殴った。振り下ろすような拳がジョルノの顔を打ち抜く。 「質問はいらない、ただ答えればいい・・・ここ数日ギャングの中で腕に心得のあるやつが連続して狙われている・・・俺の仲間もその襲撃にあっている、それはどうやら特異な能力を持った奴らが、何らかの目的で集中してここ一帯を狙っている・・・という事なんだ・・・」 「・・・」 「お前が空港周辺で稼いでいるのは知っている・・・だから、妙な奴が来たなら一番お前が詳しいと思ってな・・・」 「・・・魔術士連続襲撃事件か」 「(ゆ、ユーノ君!)」 男が声の方向に向き直る、しかしフェレットであるユーノを当然無視してなのはへと。 「今のは君の声かい?オカシイ、な?口を閉じているのに喋るなんて・・・それに何やら・・・連続襲撃事件と聞こえたが気の所為かい・・・?」 「(ごめんなのは・・・!!)」 「・・・」 なのはは何も言わずじっと堪えた。男はそれを恐怖で緊張していると感じ取ったのか、少し優しい口調で 「じゃあ一つだけ答えてくれないかな・・・?俺の言ったギャングが連続して狙われている事件について、君は心当たりがある・・・イエスかノーか首を動かして答えてくれ」 イエスと応じれば、当然更なる追及を受けるだろう。 ノーと応じれば・・・解放してはくれないだろう、解放してくれたとしても背後関係を洗われる。 どちらも選べない状況で逡巡するなのは、顔に一筋流れる汗を ベロンッ! 男が舐め取った。 「!!??!?!?」 「(こいつ・・・!!)」 「・・・」 「俺ね・・・人が嘘をついてるかどうか汗の味で解るんだ・・・この味は答える事に嘘・・・つまり答える事を隠したい・・・って事」 今度はなのはの肩口から二の腕の辺りまでがジッパーで大きく開かれた。 「ムゥー!!ムグゥー!!」 なのははすっかり気が動転していた。無理も無い、こんな身の危機では成人男性ですら悲鳴を上げて逃げ出す程だ。 「もう少し、話を聞く必要があるようだな・・・俺の名はブローノ・ブチャラティ・・・あまりにだんまりが続くようなら質問を『拷問』に変える必要があるぜ・・・」 「(なのは!!目くらましと解呪をセットでぶつける!!この場は脱出だ!)」 念話の声に理性を取り戻すと同時に、閃光弾の様な光が炸裂した。 「ぐぅっ!!?」 「うああッ!!」 ジョルノとブチャラティが目を押さえて仰け反る。 解呪によって身体のジッパーが無効化した事を確認すると、脱出経路を探そうと目を走らせた刹那、なのはに見えた。 『Protection』 窓の外で鉄槌を振りかぶる少女の姿が 「おらあああぁぁぁ!!!!」 窓ガラスを突き破って来た少女の鉄槌がなのはのプロテクションに食い込み・・・ぶち破った。 衝撃でそのまま反対側の壁まで吹っ飛ばされるなのは 「っかはっ・・・」 瞬時にバリアジャケットを展開していなかったら壁に叩きつけられて気絶していただろう・・・同時にレイジングハートを展開し、対峙するなのは。 「誰なの!?」 「命はもらわねぇ・・・おとなしくやられてくれ」 to be continue・・・ 前へ 目次へ 次へ
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「ん……?」 グレイがこの世界に現れてから二日が経った。 彼が目覚めたのはベッドの上。それも宿屋にあるような上等なものではなく、どちらかと言うと簡素なものだ。 しばらくグレイはその場で停止する。どうやら状況を飲み込んだ上で、これからの行動を考えているのだろう。 この状況になるまでに憶えている事は、エロールによってこの世界に飛ばされたこと。続いて燃え上がる建物の中での戦闘。それからの記憶は無い。 これがどういう事かを考え、戦闘後に建物から連れ出され、ここに運び込まれたのだと結論付けた。 あの場にいた中でそれができそうなのは、白服の女、高町なのはただ一人。あの後で誰かが来たのでなければ、なのはに連れ出されたのだろう。 ふと、近くに来ていた看護婦が気付き、話しかけてきた。 「あら、目が覚めたんですね」 そう言うと、看護婦がグレイへと歩み寄ってくる。対するグレイは、その看護婦に問い、看護婦もそれに答えた。 「ここはどこだ? 何故俺はここにいる」 「ここですか? ここは聖王医療院です。あなたはミッド臨海空港でモンスターと戦って、その後ここに運び込まれたんですよ」 実に簡潔な回答。おかげで先程の考えが正しかったと証明された。 さて、グレイの頭には現在、一つの単語が引っかかっていた。『ミッド臨海空港』という単語である。 ここで言うミッドとは、おそらく彼の目的地であるミッドチルダ。つまり到着時の状況はともかく、目的地には到達できたという事らしい。 と、ここで看護婦がグレイに一つ伝言を伝えてきた。 「ああ、そうそう。あなたが目を覚ましたら伝えるように言われていたことがあったんでした。 目が覚めて、もし動けるようになったら時空管理局本局に来てほしいって、高町教導官からの伝言です」 ……本局とは一体どこだ? Event No.02『高町なのは』 目覚めてから数日後、グレイが本局ロビーの椅子に座っている。受付の順番待ちである。 普段から腰に差している古刀は無い。どうやら管理局で預かっているようだ。 先日の伝言には、本局に来たときに返すとの旨もあった。だから刀を返してもらう意味でもこちらには来る必要があったのである。 ちなみに他の荷物は病院を出る際に返してもらっている。 と、そんなことを言っている間にグレイの番が来たようだ。受付カウンターまで移動し、用件を伝える。 「高町教導官という人物に呼ばれて来た。取り次いでくれ」 「高町教導官に……ですか? ただいま確認しますので、少々お待ちください」 そう言うと受付嬢は通信モニターを開き、なのはへと連絡を取る。 こう言っては悪いが、いきなり現れてエースオブエースとまで呼ばれるような有名人に呼ばれたといわれても信用するのは難しい。 待つこと数十秒、モニターの向こうになのはの姿が映った。 「あ、高町教導官。あの実は、教導官に呼ばれたっていう男の人が来ているんですが……」 『男の人? その人って、灰色の長い髪をしてませんでしたか?』 「え? あ、はい。確かにそうでしたけど……」 その言葉になのはがしばらく考える。対する受付嬢は反応の無くなったなのはに怪訝そうな表情だ。 (もしかして、空港の時のあの人じゃあ……) 「あの……高町教導官?」 『あ、すいません。じゃあ、その人に待合室で待ってるように言ってくれませんか?』 受付嬢の表情が変わった。本当になのはに呼ばれていたのがそんなに驚くような事なのだろうか? とにかく、すぐに了承して通信を切り、グレイにその旨を伝えた。 「遅い……」 十数分後の待合室。グレイが暇そうな表情でそこにいた。 近くの本棚から本を取り出して読もうとするも、マルディアスとは文字が違うために読めない。 かといって剣の練習もこんな狭いところではできないし、術の練習もまた然り。 それ故に暇潰しすらできずに椅子に座っているほかなかった。他にできる事があるとすれば集気法で回復速度を上げるくらいか。 と、待合室のドアが開く。そこから現れたのはグレイにとっても見覚えのある女性だった。もっとも今は服装も髪型も違っていたが。 「えっと……怪我の具合はどうですか?」 「見ての通りだ。動ける程度には回復している」 まずはその女性、なのはがグレイの具合を聞き、それに答えを返す。 もっとも、動ける程度に回復したら来るよう言われていたので、ここに来ている時点である程度想像はつくのだが。 それを聞き、なのはがほっとしたような表情を浮かべて礼を言う。 「そうだ、あの時はありがとうございました」 急に礼を言われ、頭に疑問符を浮かべるグレイ。どうやら例を言われる理由がサッパリらしい。 どういうことか分からないので、なのはに直接聞くことにしたよう。 「……? 何の事だ?」 「ほら、あの時命がけでモンスターと戦ってたじゃないですか」 「その事か……あそこを出るのにあれが邪魔だっただけだ。感謝されるいわれは無い。 それより、俺を呼び出して何の用だ、高町教導官?」 グレイがそう聞くと、なのはの表情が変わる。今までの優しい顔から多少厳しい顔に。 「一つ、あなたにとって重要な話をするために呼びました」 話は空港火災の日まで遡る。 「なのはちゃん、ちょっと話があるんやけど」 「どうしたの?」 空港火災の日、そこで指揮を執っていた茶の短髪の女性『八神はやて』がなのはを呼び止めた。 表情からすると、何か真面目な話題なのだろう。いつになく真剣な顔である。 「まず、これを見てくれへん?」 そう言ってはやてが出したのは、空港内で確認された何かの反応のデータが映ったモニター。 それは人間だったりモンスターだったり、あるいは炎だったり色々である。 少しずつ時間を進めるような形でデータを進め、そしてある所で一時停止をかける。 「……ここや」 はやてが指差した箇所。その箇所には一秒前まで何の反応も無かった。一秒前までは。 だが、そこに突如人間一人分の反応が現れた。同じように転移の反応も同時に。 これが何を意味するか、理解に時間はかからない。 「え? これって、もしかして……」 「せや。転移魔法かそれとも次元漂流者かは分からへんけど、この時間に誰かがここに転移して来てるって事や」 そのまま再生ボタンを押し、その反応を追う。その反応はどうやら出口を探しながら移動しているようだ。 移動した軌道上のモンスターの反応は少しずつ減っていっている。その反応の主が倒したのだろうか? そしてある程度進んだ時点で再び一時停止。 「そして、この反応がなのはちゃんや」 そう言いながら、その反応の近くにある別の反応を指差す。どうやらこれがなのはの反応らしい。 近くには子供一人分の反応と、大物モンスターの反応もある。 「はやてちゃん、これ……」 なのははすぐに感づいたようだ。その反応の主の正体に。 そう言ったなのはに対し、はやても頷いて返した。 「これは多分、なのはちゃんが助けた灰色の髪の人の反応やろな」 そして、その詳細や目的を確かめるためになのはがグレイを呼び出し、今に至るという訳である。 「えっと……」 そういえばなのははグレイの名を知らない。そのため少し言いよどむ。 それを察したグレイが、自分の名を名乗った。 「まだ名乗っていなかったな。俺の名はグレイ」 「それじゃあ、グレイさん……ここは、あなたがいた世界ではありません」 この後の反応はなのはにも予想はできている。おそらく驚くか、あるいは現実を受け入れるのに多少考えるかの二択。 今までの次元漂流者の場合は、ほぼ全てがそのどちらかだったと、データで見たことがあったし、今まで見てきたのも大抵そうだったからだ。 だが、グレイの反応はそのどちらでもなかった。 「知っている。ミッドチルダだろう?」 その事に逆になのはが驚いた。 ここが異世界だと知っている上で、それで猶ここにいる。それはどういうことか。 いくつか思い当たる可能性はあるが、直接聞いたほうが早い。もしかしたら犯罪目的で違法に転移を行った可能性もある。 表情を若干厳しいものに変え、その疑問を口に出した。 「それはどういう事なんですか? 場合によっては、あなたを拘束しなければいけなくなるかもしれません」 これはどうやら、グレイがエロールから聞かされていた真相を話す必要があるようだ。というより、そうしないと面倒になりそうである。 意を決し、その真相を話した。 「――――俺が聞かされているのは、それで全部だ」 その話は、なのはにとっては信じがたい事であった。 何せ異世界の邪神が復活し始め、完全な復活のための力を蓄えるためにミッドチルダに来ているなどと聞かされても、どう反応すればいいのか分からない。 だが、グレイの目は嘘をついている目ではない。おそらくは真実なのだろう。 「じゃあ、一人でそのサルーインと戦っているんですか?」 相手が神だというのなら、一人で戦うのは無謀。なのに一人でいる……という事は、まさか一人で戦っているのだろうか。 なのははそう思い、グレイへと尋ねる。そして返ってきたのは否定だった。 「いや、仲間があと四人いる。この世界に飛ばされる時に散り散りになったようだがな。 ……そうだ、時空管理局……だったか? お前達の方で同じように見つけてはいないのか?」 飛ばされる時に散り散りになった四人の仲間。それがこの世界に来ているのならば、管理局の方で見つけているはず。 その事に一縷の希望をかけて同じように質問を返すが、なのはから返ってきたのは否定。 「……残念ですけど、あの日に転移してきたのはグレイさんだけでした」 「そうか……分かった」 やはり落胆しているのだろうか、グレイは声のトーンを幾分落として返す。 そうして次の瞬間には、席を立った。 「仲間を探す時間は無い。俺はサルーインを探しに行く」 それはあまりにもいきなりな事。そのせいでなのはは面食らい、のけぞる。 そのまま椅子ごと後ろに倒れるのを何とか踏みとどまり、何とかグレイを引き止めようとした。 あても仲間もないのに出発するという自殺行為を止めたいという一心で。 「待ってください! 出発するって言っても、あてはあるんですか?」 沈黙。 やはりあては無かったらしい。 「それに、相手は神なんですよね? 一人で戦って勝てる相手なんですか?」 さらに沈黙。 「あ、これは絶対無茶だ」という思考が頭を支配しているのだろう。だからといって他の手など思いつかない。 そういう事を考えていたグレイに対し、なのはがとある提案を持ちかけようとした。 「……グレイさん、管理局に協力する気は『なのはさん!』 が、急にオペレーターからの通信が入り、中断せざるを得なくなった。 「どうしたんですか?」 『例の海賊たちです! 次元航行艦が一隻襲われました!』 海賊? この世界にも海賊がいるのだろうか。 そのような疑問を浮かべるグレイを尻目に、通信で二言三言話したなのはが椅子から立ち上がる。 そしてグレイへと向け、謝罪の言葉を口にして部屋を飛び出した。 「ごめんなさい、グレイさん! 急ぎの用ができました! 後で続きを話すので、ここで待っててください!」 部屋に残されたグレイは、一人考えていた。 会話の内容からすると、その急ぎの用とは海賊退治だろう。 ならばある程度役に立つことはできるだろうし、何より待たされるのは御免だ。 そして結論……なのはに同行し、手を貸す。話の続きは移動中でも可能だろう。 その結論を出したグレイは、荷物袋から予備として持っていた武器『アイスソード』を取り出し、それを背に負って駆け出した。 戻る 目次へ 次へ
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第10話「再会は異世界でなの」 「フェイトォッ!!」 エイミィからの連絡を受けたアルフは、すぐさまフェイトの元へと駆けつけた。 幸いにも、彼女が相手をしていたザフィーラは「十分過ぎる成果を得られた」と言い残し、すぐに撤退してくれた。 その為、フェイトが倒されてからあまり間を空けずに到着する事が出来た。 彼女がその場に到着した時、そこに仮面の男の姿は無かった。 あるのは、意識を失ったフェイトとそんな彼女を抱きかかえるシグナム二人の姿だけだった。 「シグナム……!!」 「……テスタロッサの目が覚めたら、伝えておいて欲しい。 言い訳をするつもりは無い……すまなかったとな。 テスタロッサは、リンカーコアを抜かれてから大して時間は経っていない。 すぐに適切な処置をすれば、目も覚ますだろう。」 「え……あんた……」 アルフは、シグナムの言葉を聞いて少しばかりの戸惑いを覚えた。 自分達は敵同士、追う立場と追われる立場なのだ。 今、フェイトは極めて無防備な状態にある。 再起不能になるだけのダメージを負わせるなり、人質として連れ帰るなり、状況を有利に出来る手段は幾らでもある。 だが彼女は、その一切を取らなかった。 一人の騎士として、そんな卑劣な真似をしたくは無かったのか。 互角にまで渡り合えたフェイトに、敬意を払ったのか。 それとも……守護騎士として、主の名を汚したくなかったのか。 どれにせよ、シグナムが正々堂々とした態度を取っているという事実には変わりない。 「……敵同士で、こういう事を言うのもあれだけどさ。 その……ありがとうね、シグナム。」 「……礼には及ばない。」 シグナムはアルフへと、フェイトを手渡した。 そして、直後……彼女は転移呪文を使ってこの世界から姿を消した。 敵でありながらも、シグナムはフェイトの身を案じてくれていた。 アルフは、少しばかり複雑な気持ちではあったものの、その事に感謝していた。 とりあえず、何はともあれフェイトを急いで運ばねばならない。 アルフの術では、ここから時空管理局本局まで飛ぶのは流石に無理な為、エイミィに頼むしかなかった。 すぐさま、エイミィとの連絡を取ろうとするが……その瞬間だった。 突如として、激しい地響きが発生したのだ。 震源は真下……アルフの足元からだった。 「まさか!!」 嫌な予感がしたアルフは、すぐに上空へと飛び上がった。 この世界には人間は一切いないが、その代わりに大型の野生生物が多く存在している。 それが、今まさに現れようとしているのだ。 フェイトを抱えたままでは、対処の仕様が無い……彼女を安全な場所に避難させなければ。 すぐにアルフは術を発動させ、フェイトを先にエイミィの元へと送ろうとする。 「エイミィ、フェイトの事お願い!!」 『うん、もう本局に連絡は取れてるから何とかできるけど……アルフは?』 「流石に、二人一緒にってのは少し時間がかかるからね。 私なら大丈夫だよ、すぐに後から行く。」 『分かった……気をつけてね!!』 「ああ……!!」 フェイトの姿が、その場から消えた。 アルフの術によって、無事にエイミィの元へと転送させられたのだ。 後はエイミィがゲートを繋いで、フェイトを本局へと送ってくれるだろう。 これで、彼女の事は何とか安心できる……後は、自分の問題を片付けるだけである。 地響きが真下から来た事から考えれば、相手の狙いは間違いなく自分。 恐らくは、餌と認識されたのだろう。 「さあ、来るならさっさと来なよ!!」 アルフが構えを取った、その直後。 大量の砂塵を巻き上げながら、その生物は姿を現した。 青い体色の、顎が大きく発達した怪獣。 かつて、ウルトラマンジャックとウルトラマンエースの二人が戦った相手。 そしてメビウスも、その亜種と激闘を繰り広げた敵―――ムルチ。 「ギャオオオォォォォッ!!」 ムルチは口を大きく開き、アルフへと破壊光線を放つ。 アルフはそれを障壁で受け止めると、すばやくムルチの胸元へと移動した。 体格の差は圧倒的ではあるが、逆にそれが味方をしてくれた。 ムルチの巨体では、懐に入ってきたアルフに対処が出来ないのだ。 「ハアアァァァッ!!」 強烈な拳が、ムルチの胴体に叩き込まれた。 鳩尾に一撃……かなり効いている。 そこからアルフは、間髪入れずに拳の連打を浴びせた。 ザフィーラからの連戦だから厳しいかと思ったが、どうやら予想していたよりも大した敵ではなさそうだ。 アルフは少しばかりの余裕を感じた後、ムルチを沈めるべく一気に仕掛けた。 しかし……この時、彼女は思いもしなかっただろう。 もしもミライがいたならば気づけただろうが……本来ムルチは、こんな砂漠にいる筈がないなんて。 ムルチが、『巨大魚怪獣』の呼び名を持つ『水棲怪獣』であるなんて。 一応過去に一度、ムルチは地中からその姿を現したこともあるが……それでも、砂漠という環境は流石に無茶である。 ならば何故、ムルチがここで活動できているのか……その理由は一つしかない。 悪魔の魔の手は……既に、数多くの世界に広がっていたのである。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「ディバインシューター!!」 『Divine Shooter』 「シュート!!」 なのはは5発ほどの魔法弾を生成し、それをレッドキングへと一斉に放った。 しかしレッドキングは、大きく尻尾を振るってその全てを掻き消す……ダメージは皆無。 その後、レッドキングは再び大岩を持ち上げると、なのはへと投げつけてきた。 遠距離にいるなのはに仕掛けるには、これ以外の攻撃手段はレッドキングにはない。 確かに命中すればダメージは大きいだろうが、流石に攻撃が単調すぎる。 なのはには、あっさりと避けられてしまった。 「パワーは凄いけど、距離さえ離しちゃえば……!!」 レッドキングの戦闘スタイルは至って単純。 怪力に任せての、荒々しく凶暴なものである。 接近戦における圧倒的不利は、目に見えている。 しかし距離さえ離してしまえば、攻撃の手段は岩を投げる以外に無い。 両者の戦い方は、完全な対極に位置している。 その事実は、なのはにとっては幸運であり、そしてレッドキングにとっては不幸以外の何物でもなかった。。 流石にレッドキングもこのままでは不利と悟り、一気に距離を詰めにかかった。 だが……レッドキングが取った行動は、走ってくるとかそんなレベルの話ではなかった。 力強く両脚で地面を蹴り、文字通りに『跳んで』きたのだ。 これにはなのはも度肝を抜かれた。 幾らパワーが持ち味とはいえ、あの巨体でここまで跳び上がれるのか。 しかもスピードがある……回避は出来ない。 なのははとっさに、障壁を出現させる……が。 「っ……キャアァッ!!」 レッドキングは、2万トンの体重を持つ超重量級の怪獣。 そのロケット頭突きには、流石に堪え切る事が出来なかった。 なのはは後方へと大きくふっ飛ばされ、派手に地面に激突する。 ヴィータにラケーテン・ハンマーをぶちかまされた時と同じ。 いや、あの時以上かもしれない破壊力があった。 不幸中の幸いだったのは、地面に激突する寸前に、レイジング・ハートが自動的に障壁を展開してくれた事。 その為、何とかダメージは軽減できたのだが…… レッドキングは、ここで追い討ちを仕掛けてきた。 大きく足を上げて、なのはを踏み潰しにかかったのだ。 ロケット頭突き以上に危険すぎる……防御の有無抜きで、命中したら致命傷は免れない。 「ギャオオオォォォン!!」 「レイジングハート!!」 『Flash Move』 とっさに急加速し、間一髪攻撃を避ける。 その直後、相当な量の土煙が吹き上がってなのはの全身を覆い隠す。 あと少し遅れていたら、確実に踏み潰されていただろう。 そのままなのはは、素早くレッドキングから離れようとする。 しかし今度は上空には飛び上がらず、低空飛行で移動している。 これは、先程のロケット頭突きを警戒しての行動だった。 今レッドキングの周囲には、大岩は勿論、投げる事の出来るような物は一切無い。 普通に考えれば、なのはを攻撃する手段は無いように思われるが……先程のロケット頭突きの様な奇襲もありえる。 そう安易に考えてはいけないのは、なのはも重々承知していた。 そしてレッドキングはというと……そんな彼女の考えどおりに、仕掛けてきた。 投げる物が無ければ、作ればいい。 そういう風に考えたのだろうか、あろうことかレッドキングは、地面を怪力で引っぺがしたのだ。 そのまま、なのは目掛けて巨大な土の塊を投函してきたのである。 土は岩に比べれば、かなり脆い。 命中まで形をとどめる事が出来ず、上空で砕け散り、無数の土砂となってなのはへと降り注いできたのだ。 「っ!!」 『Wide Area Protection』 相手が岩ならば打ち砕けたのだが、土砂となるとそうもいかなくなる。 なのははとっさにカートリッジをロードして、広域防御結界を展開した。 その直後、彼女の身に大量の土砂が降りかかった。 あっという間にその全身は土砂の中へと埋まり、姿が隠されてしまう。 土砂は大量、結界も何もなしに埋まったのではまず助からないレベルである。 だが……レッドキングは、それで満足するような怪獣ではなかった。 なのははミライから聞いたときに少しばかり疑問に思ったが、レッドキングは名前に反して『白い』体色をしている。 ならば何故、レッドキングなどという名前が名付けられたか。 それは、この上なく凶暴で『赤い血』を見ることを何よりも好むからである。 レッドキングは、極めて獰猛かつ残忍なのだ。 かつては、自分よりも遥かにか弱い存在であるピグモンを徹底的に甚振り、死に至らしめた事すらもある。 そんなレッドキングが……土砂で覆い潰したぐらいで、満足するわけが無い。 「ギャアオオオオォォン!!」 確実な死を与える為、レッドキングは両手を組んで、地面へとハンマーフックを打ち下ろした。 それも一発ではなく、何度も何度もである。 拳が叩きつけられるごとに、土砂が勢いよく跳ね上がる。 そして、およそ十発程打ち下ろした後。 レッドキングは周囲を見回して、丁度いいサイズの大岩を見つけ出した。 仕掛けるのは、駄目押しの一撃……豪快に持ち上げて、そして地面に叩きつけようとする。 これで、まずなのはは生きてはいまい……そうレッドキングは思っていただろう。 だが……その瞬間だった。 『Divine Buster』 「ッ!?」 地面の下から、レイジング・ハートの声が聞こえてきた。 直後、眩い桜色の光が地面を突き破って出現し……レッドキングの手首に命中した。 レッドキングは思わず大岩を落としてしまい、そしてその大岩がレッドキングの足の指を直撃する。 かつてミライ達も取った、レッドキングにとって最も効果的な攻撃手段の一つである。 『ギャオオオォォォン!!??』 レッドキングは足を抱えて、悲鳴を上げた。 なのはは倒されていないどころか、全くの無傷。 何故なら彼女は今、土砂の下……攻撃の届かない、深い穴の底にいるからだ。 レッドキングが追い討ちに出てくるのは、容易に想像できた。 それをまともに耐え切ろうとするのは、自殺行為に他ならない。 そう判断したなのはは、土砂で姿が隠された瞬間に、地面に穴を空けたのだ。 後は攻撃がやむまで、安全な穴の中に身を隠すだけだった。 上方の土砂は、障壁を展開する事でなだれ込んでくるのを防いでいた。 そして、レッドキングが大岩を拾いにいき攻撃が中断された瞬間。 なのはは契機と見て、仕掛けたのである。 ちなみにディバインバスターを放ったのは、外の様子が分からない現状でも、攻撃範囲が広いこの術ならば当たると踏んだからだ。 「いくよ、レイジングハート!!」 『All right』 レッドキングの悲鳴から察するに、レッドキングは怯んでいる。 またとない攻撃のチャンス……仕留めるのは今。 なのはは一気にカートリッジをロードし、レイジングハートの矛先を斜め上へと向けた。 直後、膨大な魔力が彼女の周囲に収束し始めた。 カートリッジシステムに変更してからは、これが初めてになるなのは最強の魔法攻撃。 「全力……全開!!」 『Starlight Breaker』 「スターライト……ブレイカアァァァァァッ!!」 膨大な量の魔力光が、地面を突き破りその姿を現した。 そしてそのまま、真っ直ぐにレッドキングへと向かい……直撃。 レッドキングは猛烈な勢いで、光と共に上空へと打ち上げられていった。 数秒して、レッドキングは地上20メートル程の高さに到達し……そして。 ドグアアアアァァァァァァン!!! 大爆発。 レッドキングは、見事に打ち倒されたのだった。 なのはは、スターライト・ブレイカーによって吹き抜けになった穴の底から、それを確認する。 無事に打ち倒す事が出来、ほっと一息つく。 そして、彼女が地上へと出た時……ようやくメビウスが、現場へとその姿を現した。 彼は、既にレッドキングが倒されていたのを見て、少しばかり驚いた。 流石というべきだろうか……自分の助けは無用だったみたいだ。 「なのはちゃーん。」 「あ、ミライさん。」 「レッドキング、もうやっつけちゃったんだ……来た意味、あまりなかったみたいだね。」 「にゃはは……じゃあ、早く戻りましょう。 フェイトちゃんの事が心配だし……」 「うん……!?」 帰還しようとした、まさしくその時だった。 これで二度目になる、強烈な地響きが発生した。 揺れはかなり激しい……一度目よりも大きいかもしれない。 流石に立っていられなくなった二人は、上空へと飛び上がる。 そしてその後……同時に、レッドキングが出現した火山へと視線を向ける。 二人とも、とてつもなく嫌な予感がしていた。 まさかと思うが、もう一匹何かが来るんじゃなかろうか。 確かめる為、二人はエイミィに連絡を取ろうとする……が。 「あ、あれ……?」 「念話が、繋がらない……!?」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「レッドキングは倒され、ムルチも圧倒されっぱなしか。 ヴォルケンリッターを相手にした後で、よくやれる……」 広大に広がる砂漠、荒廃した建物の山々。 黒尽くめの男―――ヤプールは、自分以外には何者も存在しないこの異世界から、全てを見ていた。 そう……レッドキングとムルチを仕向けたのは、他ならぬこの悪魔だったのだ。 ヴォルケンリッターや仮面の男の御蔭で、多少なりともなのはとアルフは消耗している。 倒すのならば今がチャンスと感じ、現地に潜ませておいた怪獣を襲い掛からせたのである。 超獣は、怪獣がベースとなって作り出される生物兵器。 怪獣がいなければ、一部の例外的なものを除けば、基本的に作成は不可能なのだ。 そして、より強い怪獣がベースであればあるほど、生み出される超獣も強くなる。 そこでヤプールは、これまで異次元空間内に捕らえてきた多くの怪獣を、近辺の異世界に解き放ったのだ。 野生のままに暴れさせ、成長させる方が、より強くなるだろうと判断した結果である。 その内幾つかの怪獣には、既に軽い改造は施してある……ムルチもその内の一匹。 乾燥した、砂漠のような土地でも動けるよう改造してあったのだ。 無論、狙いはそれだけではない……今回の様になのは達が異世界に現れた際、それを撃退する事も目的である。 しかしながら、レッドキングとムルチは倒されてしまった。 ならば、次の手を打つまで……特になのはとメビウスの二人は、ここで確実に潰す必要がある。 魔力の蒐集が不可能な以上、二人は単なる邪魔者でしかない。 管理局の方に対しては、既に手は打ってある。 仮面の男が、自分達の足跡を下手に辿られない様にと、先程ハッキングを仕掛けておいてくれたのだ。 これは、仮面の男が管理局に通じているからこそ出来た裏技。 御蔭で管理局側からの増援は、当分の間食い止められる……思う存分に叩き潰す事が出来る。 ヤプールは、不適に笑い……新たなる僕を呼び出した。 「行け……ドラゴリー、バードン!!」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「エイミィ……?」 一方その頃。 ムルチと戦っていたアルフも、異変に気がついた。 いつのまにか、エイミィとの連絡が全く取れなくなっている。 あのエイミィに限って、現場から離れるなんてそんな馬鹿な事はありえない筈。 そうなると……考えられるのは、何者かからの妨害行為しかない。 ヴォルケンリッターか仮面の男か、どちらかもしくは両方か、自分達の足跡を辿られない様にしたのだろう。 しかし先程のシグナムの事を考えると、ヴォルケンリッターがこんな真似をするとは考えがたい。 (いや……そうとも言い切れないか。) 一人だけ、そんな真似をしかねない者がいた。 初遭遇の日、なのはに奇襲を仕掛けてリンカーコアを抜き取ったシャマルだ。 考えてみれば、ヴィータ・シグナム・ザフィーラの三人しか異世界には姿を現していない。 ダイナに関しては別として、シャマルは先日の戦いにも、直接の参加はしていない。 完全なバックアップ担当と見ていいだろう。 それに、あまりこういう言い方はしたくないが……一人だけ、正々堂々とは言い切れない。 彼女の性格はよく知らないが、それでも十分にありえる話だ。 勿論、仮面の男が妨害行為をした可能性もある……寧ろ、こちらの方が可能性としては高い。 仮にシャマルがやったのだとしたら、何でそれを今までやらなかったのかという話になるからだ。 だが仮面の男は、先日はベロクロンのゴタゴタに紛れてだったが、今回にはそれがない。 完全な形で姿を見せたのは、これが初……ならば、彼等であるのはほぼ間違いないだろう。 タイミング的にも、十分合う。 「どっちにせよ、こいつをぶっ倒してさっさと戻ればいい話さ。 とっとと決めに……!?」 とどめの一撃を叩き込もうとした、その瞬間だった。 何処からか、「ミシリ」と何かに亀裂が走るような音が聞こえてきた。 アルフはとっさに、その音源……上空を見上げた。 見渡す限り砂漠のこの世界に、そんな物音を立てられそうな代物なんて一つもない。 ただ一つ……昨日も目にした、空を除けば。 「まさか、嘘……!?」 ガッシャアアアァァァァァン!!!! 空が割れ、その超獣は姿を現した。 地球上に生息している蛾と、宇宙怪獣とを組み合わせて誕生した超獣。 かつて、エースとメビウスを苦しめた蛾超獣ドラゴリー。 ドラゴリーは着地すると、早速アルフへと攻撃を仕掛けてきた。 唸りを上げ、両腕を振り回す。 アルフはとっさに急加速し、その一撃を逃れる。 しかしその背後には、大口を開けて待ち構えていたムルチがいた。 「ギャオオオォォン!!」 「くっ……!!」 ムルチは口を開き、破壊光線を放つ。 アルフはとっさに障壁を展開し、その一撃を受け止める。 するとここで、今度はドラゴリーが背後から仕掛けにきた。 両の眼球から光線を放ち、アルフを焼き殺そうとする。 挟み撃ち……両方の攻撃を防御しきる自信はない。 ならばと、アルフは障壁を維持したまま上空へと急上昇した。 それにより、ムルチとドラゴリー両者の攻撃は、それぞれ正面にいる相手に命中してしまう。 見事、同士討ちをしてくれたのだ。 「ギャアアァァァ!?」 「グオオオォォォン!!」 「やった……あんまり、頭はよくないみたいだね。 それにしても、どうして……!!」 何故、ヤプールの超獣がこんな異世界に現れたのか。 先日の襲撃の件も考えると、やはり狙いは自分達ということになる。 メビウスに味方する者を全滅させるつもりなのは、まず間違いない。 ヤプールが闇の書を狙っているというのなら、尚更になる。 ここで自分が倒れれば、ヤプールは簡単に魔力を手に入れることが出来るからだ。 後は何らかの形で仮面の男同様にヴォルケンリッターに接触し、それを渡せばいい。 「全く、面倒なことしてくれちゃって……!?」 ここでアルフは、言葉を失った。 その眼下では、ドラゴリーとムルチが争いあっている。 同士討ちを狙った以上、それ自体はありがたいことなのだが…… 正直言うと、これは争いとは呼びがたい。 そう、それは……一方的な虐殺だった。 両者の戦闘能力の差は、圧倒的過ぎた。 ドラゴリーはムルチを、徹底的に甚振っていたのだ。 ムルチはドラゴリーに馬乗りにされ、滅多打ちにされている。 必死になって抜け出そうと、ムルチはもがいている。 だがドラゴリーは、無情にもそんなムルチの左腕と肩を掴み……その怪力で、一気に左腕をもぎ取った 鮮血を噴出しながら、ムルチがもがき苦しむ。 しかしそれでも、まだドラゴリーの攻撃は終わらない。 今度は右腕と肩を掴み、そして勢いよく右腕をもぎ取った。 ドラゴリーは、ムルチを徹底的に八つ裂きにしようとしているのだ。 ムルチが悲痛な叫び声を上げる。 それが癪に触ったのだろうか、ドラゴリーはムルチの嘴を掴んだ。 そして……両手で一気に開き上げ、そのまま顔面を真っ二つにしたのだ。 ムルチの泣き声が止む……絶命したのだ。 「っ!!」 あまりの酷さに、つい動きを止めてしまっていたが……そんな場合じゃない。 寧ろ、敵の注意がそれている今は最大の攻撃のチャンスである。 アルフはすぐに飛び出し、全速力でドラゴリーへと向かった。 魔力を乗せた拳を、その後頭部へと全力で叩き込む。 流石にドラゴリーも、この奇襲には反応できなかった。 少しよろけ、地面に倒れそうになる……が。 「キシャアアァァァァッ!!」 そう簡単には、倒れてはくれない。 ドラゴリーは踏ん張ると、振り向き、その鋭い目でアルフを睨みつけた。 強い殺意に満ちているのが、一目で分かる。 この超獣は、ムルチよりも遥かに危険。 即座にその事実を、アルフは理解する事が出来た。 「……どうやら、最初に来た奴ほど甘くはないみたいだね……!!」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「どうして、連絡が……」 「なのはちゃん、くる!!」 「あ、はい!!」 同時刻。 なのはとメビウスの前にも、ヤプールから送り込まれた刺客が現れた。 レッドキングが出現したのと同じ、火山の麓。 そこから唸りを上げ、その怪獣は現れた。 その姿を見て、メビウスは思わず声を上げてしまった。 現れたのは、ウルトラ兄弟最強と詠われた二大戦士、タロウとゾフィーを一度は葬り去った大怪獣。 メビウス自身も、かつて深手を負わされてしまった、最大の強敵が一匹―――火山怪鳥バードン。 レッドキングとは……格が違いすぎる。 「そんな……!! レッドキングの次は、バードン!?」 「キュオオオォォン!!」 バードンは高らかに泣き声を上げると、その場で強く羽ばたいた。 強烈な突風が巻き起こり、周囲の木々が次々に吹き飛ばされていく。 バードンの羽ばたきは、民家を一つ破壊する程の威力がある。 なのはとメビウスは、とっさに防御を固めるが……踏ん張りきれない。 「セヤァァッ!?」 「キャアァァァッ!!」 二人は突風に煽られ、後方へと吹き飛ばされてしまった。 特に、バードンとのサイズの差があるなのはの方は、100m以上吹き飛ばされてしまっている。 そうなると、攻撃対象が近くにいるメビウスの方となるのは必然。 バードンは大きく翼を広げ、メビウス目掛けて飛びながら迫ってきた。 その巨体からは想像がつかないほどの、とてつもない速さ。 とっさにメビウスはメビウスディフェンスサークルを展開して、バードンの嘴を受け止める。 嘴による一撃だけは、絶対に受けてはならない。 その恐ろしさがどれ程のものか、メビウスは身をもって味わった経験があった。 メビウスはすぐに間合いを離して、光弾をバードンへと放つ。 しかしバードンは、それを翼で弾き飛ばした。 そしてそのままの勢いで、メビウスに翼を叩きつける。 「グゥッ!?」 「キュオオオォォン!!」 「ミライさん!! レイジングハート、カートリッジロー……!?」 『Master!?』 「なのはちゃん……!?」 まともに胴体に打ち込まれ、メビウスが怯む。 それを見たなのはは、すぐさま助けに入ろうと、カートリッジをロードしようとした。 だが、その瞬間……異常は起きた。 なのはが胸元を押さえ、急に苦しみ始めたのだ。 顔色は悪く、汗も酷く流れ出ている……全身の震えも止まらない。 レイジングハートは、一体彼女に何が起こったのか、まるで分からなかったが……数秒して、事態を把握した。 よく見てみると、バードンの周囲の木々が枯れはじめているのだ。 『まさか……この生物は……!?』 「なのはちゃん、急いで地球に戻って!! バードンは、体内に猛毒を持ってる……このままじゃ危険だ!!」 「毒……!?」 バードンはその体内に、強力な毒素を持っている。 それが先程の羽ばたきによって、微量ながらも散布されてしまっていた。 なのはは運悪く、それを吸い込んでしまっていたのだ。 メビウスが嘴による攻撃を恐れていたのも、ここにあった。 万が一、刺されてしまった場合……直接毒素を注入されてしまうからだ。 このままでは命に関わりかねないと、すぐに撤退するようメビウスはなのはに促した。 彼女をこのまま戦わせるのは危険すぎる……バードンは、自分一人で倒さなければならない。 幸い、メビウスは空気中の毒素の影響は受けてはいない。 戦うことは十分可能……すぐに向き直り、構えを取る。 「セヤァッ!!」 「キュオオオォォン!!」 メビウスはバードンの胴体へと、蹴りを打ち込む。 バードンは少しばかり怯むも、すぐに持ち直して反撃に移った。 怒涛の勢いで繰り出される、翼による殴打の連打。 メビウスは防御を固め、反撃の隙をうかがった。 そして、その時はすぐに来た。 バードンが大きく振り被って、翼を打ち下ろしにかかる。 その一瞬の隙を狙い、メビウスは前転。 バードンの背後に回り込んで、一気に仕掛けにかかった。 「セヤァァァァッ!!」 メビウスブレスのエネルギーを開放し、拳に纏わせる。 必殺の拳―――ライトニングカウンター・ゼロ。 メビウスは勢いよく、全力でその一撃を背後から叩き込んだ。 直撃を受けたバードンは、呻き声を上げて地面に倒れ…… 「キュオオオン!!」 こまない。 とっさに地面へと両手をつけ、ギリギリのところで踏ん張っていたのだ。 その後、地面を蹴ってそのまま跳躍。 メビウスとは逆方向―――なのはのいる方へと、接近していったのだ。 肝心のなのはは、魔方陣を展開して撤退寸前だった。 しかし……この強襲を前にして、それを中断せざるを得なくなる。 とっさに、バードンを迎撃しようとするが…… 「っ……!!」 視界が霞んで、狙いが定まらない。 毒の影響が、予想以上に響いていたのだ。 ならば先程レッドキングに仕掛けた時のように、ディバインバスターでいくのみである。 なのはは気力を振り絞り、魔力を収束させる。 「ディバイン……バスタアアァァァァッ!!」 魔法光が放たれ、真っ直ぐにバードンへと向かう。 だが……その威力が、先程に比べて弱い。 毒による消耗のせいで、完全に力を出し切る事が出来なかったのだ。 バードンは迫り来る光に対し、口を開き高温の火炎を吐き出した。 ディバインバスターが、相殺されてしまう。 そのままバードンは、なのはへと接近……嘴を突きたてようとした。 なのはは、とっさに目を閉じてしまう。 しかし……その瞬間だった。 「グッ……!?」 「!! ミライさん!!」 なのはをかばって、メビウスがその一撃を受けてしまっていた。 深々と、バードンの嘴が肩に突き刺さってしまっていたのだ。 メビウスはすぐにバードンへと拳を打ち込み引き離すも、その場に膝をついてしまう。 これで彼の体内にも、毒が回ってしまった。 胸のカラータイマーが赤色へと変化し、音を立てて点滅し始める。 バードンはその様を見ると、高らかに鳴き声を上げる。 それはまるで、己の勝ちを確信し、嘲笑うかのようであった。 そして、トドメを刺すべくバードンが動く。 大きく口を開き、二人目掛けて火炎を噴出した。 (まずい、このままじゃ……!!) せめて……なのはちゃんだけでも……!!) 障壁の展開は間に合わない。 自分の体を盾にして、炎からなのはを守るしかない。 重傷を負うのは確実……最悪死ぬかもしれないだろうが、それ以外に方法は無かった。 メビウスは、迫り来る炎を前にして覚悟を決めた。 なのははそんなメビウスを見て、力を出し切れなかった己を呪った。 何とかして、メビウスを―――ミライを助けたい。 なのはとメビウスと。 二人が、互いを思い強く願った……その時だった。 祈りは通じた―――奇跡は起こった。 ドゴォォォンッ!! 「えっ!?」 上空から、二人とバードンとの間に赤く輝く光の玉が落ちてきた。 その玉が丁度、火炎から二人を守る盾の役割を果す。 なのははこの予想外の自体を前に、ただ驚くしかなかった。 しかし……メビウスは違った。 彼は、この光の玉に見覚えがあった。 やがて光は消え、玉の中から何者かが姿を現した。 メビウスと同じ大きさをした、銀色の巨人。 その胸に輝くは、六対の球体―――スターマーク。 そしてその中央には、蒼く輝くカラータイマー。 「兄さん……ゾフィー兄さん!!」 「ようやく会えたな……メビウス。」 ウルトラ兄弟を束ねる長兄―――ゾフィー。 予想していなかった、しかしこの上なく心強い増援を前にして、メビウスは思わず声を上げた。 ゾフィーはそのままバードンに蹴りかかり、その巨体を吹っ飛ばす。 その後、大きく首を振るい、己の頭で燃え盛っていた炎を消す。 どうやら先程火炎を受けた影響により、燃えてしまっていたらしい。 ゾフィーはなのはとメビウスへと振り向くと、掌をカラータイマーへと一度乗せた後、二人に向けた。 そこから、エメラルド色に輝く光が二人へと放たれる。 「あ……体が、楽に……!!」 なのはは、己の体が軽くなるのを感じた……毒が抜けたのだ。 それはメビウスも同様であり、そのカラータイマーは青色に回復している。 ゾフィーが、己のエネルギーを二人へと分け与えたのだ。 二人は立ち直り、そして構えを取った。 「メビウス、そして地球の者よ。 ここまで、よく頑張ったな……もう一息だ。 力を合わせて、バードンを倒すぞ!!」 「はい!!」 圧倒的不利かと思われていた形勢は、一気に逆転した。 ウルトラマンメビウス、高町なのは、ゾフィー。 今……三人の、反撃の狼煙が上がる。 戻る 目次へ 次へ
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マクロスなのは 第5話『よみがえる翼』←この前の話 『マクロスなのは』第6話「蒼天の魔弾」 地球環境の破壊が叫ばれる今日この頃。 その森は広大で、自然保護区にでも指定されているのだろうか? この時代にあって人工物がほとんど見られない。 だが唯一、明らかに人工物とわかる幅5メートルぐらいのコンクリート製の溝が山から山へと渡っていた。 その溝の上に1羽の小鳥が羽根を休めている。しかし何か危険を感じ取ったようだ。それは溝から飛び立つと空中に退避した。直後、小さく〝キーン・・・・・・〟という空気を切り裂く音と共に静かに鉄の箱が通り過ぎていく。 鳥は 「近所迷惑だ!」 とでも言いたげにそれに爆撃すると、豊かな緑に包まれた安住の地へと飛翔していった。 (*) 山間部を時速70キロメートルで走る貨物用リニアレールは戦場と化していた。 ヘリから飛び降りたティアナ達は、上空に展開するガジェットⅡ型を警戒しながら10両目に着地。なのは達の支援砲撃でガジェット達が気を取られている隙に10両目の車両の中に滑り込んだ。 「うわ・・・・・・」 ティアナは床を見て顔をしかめた。 そこには寝かされた陸士達の姿があった。全員出血性の外傷があるところを見ると殺傷設定で戦闘不能にされたらしい。 続いて突入してきたスバル達も血臭ただようこの車内で、真っ赤になってなお血の滴る包帯を顔面蒼白になりながらも必死に抑える者など痛々しい光景に絶句してしまったようだった。 その時まるで工事現場のような轟音を轟かせながら敵を迎撃していた前線から声が聞こえた。 「あぁ、増援か!」 最前線の9両目から1人の陸士が仲間に援護を頼み、敵の怯んだ隙にこちらへ走って来た。 「我々は第256陸士部隊、第5小隊所属、第1分隊だ。増援に感謝する」 どこか・・・・・・いや完璧に非魔法文明の意匠のバリアジャケット。質量兵器を忌み嫌うティアナはあまりいい気はしなかったが、ヘルメットの下に見えた彼の顔からは見捨てられていなかったことへの歓喜の表情がうかがえた。 どうやら猫の手も借りたい状況らしい。待ちに待った増援が子供であったことすら気にしていない様子だ。 「機動六課、スターズ、ライトニング分隊です。現状は?」 簡潔な状況確認要求にすぐ彼は応じ、開いたホロディスプレイを指差しながら説明する。 現在、運転室を含む前方8両は敵に完全制圧されていること。 撤退しながら構築した9両目の臨時トーチカ(防衛陣地)が最前線であること。 9両目で切り離すと電力供給が止まり、電磁気で浮いている車体がレール(溝)に墜落、大破してしまうのでできないこと。 敵はⅠ型だけではなく、新型(仮にボールと呼ばれている)が混じっており、逆侵攻はできないこと。 説明を聞くうちに、ティアナ達は素直に陸士部隊の手際に感心した。 もし、訓練でガジェットとの戦闘に中途半端に慣れた自分たちが守っていたとしたら彼ら陸士部隊のように臨機応変に行動出来ただろうか? 答えは否だ。 おそらく力を過信して突撃、その新型の返り討ちにあっただろう。 特に彼らの造った臨時トーチカの完成度は手放しで賞賛できるものであった。 彼らはリニアレールで唯一大型貨物が集中している9両目に初期の頃から陣地構築を計画。形勢不利とみるとすぐさまトーチカの構築を始め、撤退中に完成させた。 それは狭い入り口から入ってくるガジェット達に対応不能なほどの十字砲火(クロスファイア)を行えるように巧みに計算し、構築されていた。 しかしそれだけでは持ちこたえられなかったろう。〝従来の〟陸士部隊の装備なら。 予算の問題が解決した陸士部隊は、急ピッチで装備の改変が行われている。 デバイスはほぼ全員がアップデートしており、それらは対AMF戦を想定した設計になっている。現在彼らの撃ち出すのは魔力砲撃や魔力弾だけではなく、〝フルメタルジャケットの徹甲弾〟だ。 「それは最早質量兵器ではないか!?」 という反対を押しきって採用されたそれは、バルキリーと同じレールガン型発射方式だ。(この方式は最低のCランク魔導士でも使用でき、うってつけだった) 反動を伴ってしまう物質投射型武器のノウハウのなかった管理局が参考にしたのは、第97管理外世界のJSSDF(ジャパン・サーファス・セルフ・ディフェンス・フォース。日本国陸上自衛隊。)の装備だった。そのため使用時形態のそれはJSSDFの制式装備である『89式小銃』と『MINIMI(ミニミ)軽機関銃』に酷似していて、事実そう呼ばれる。 機能もほぼ同じで、配備数は89式小銃の方が多い。なぜなら分隊支援火器と呼ばれるMINIMIはいわゆるマシンガンで、稼動を始めたばかりの弾丸製造工場への負担が大きいからだ。 ちなみにティアナ達は知らなかったが、バリアジャケットも同様にJSSDFの装備を元にしている。 ともかく、彼ら陸士の善戦は彼ら自身のたゆまぬ努力と新装備によって支えられていた。 「佐藤陸曹、弾を持ってこい!もうすぐ弾切れだ!」 前線からの要請。佐藤と呼ばれたさっきの陸士は、床に転がる弾丸ケースを抱えると敵のレーザーの雨を掻い潜って前線に届けようと走る。 しかし、一瞬停まった所をレーザーが狙い撃ちした。 展開した魔力障壁もAMF下では敵の集中射には耐えられず貫通。胴体はバリアジャケットの分厚い防弾チョッキがそれを受け止めたが、リンカーコア出力が低いと薄さに比例してバリアジャケットも弱くなってしまうため、足に着弾したレーザーが貫通してしまった。 しかし、4人の対応は早かった。 足の速いスバルが倒れる彼を抱き止め、負傷者の待つ後方へ。エリオが彼の仕事を継ぎ、ケースを前線に届ける。キャロは応急の治療魔法にティアナとフリードリヒはその間の援護射撃。 絶妙な連携で敵を退け、友軍である陸士を救う。この勇気ある組織立った行動が陸士達の若すぎる彼らに対して抱いていた評価を変えた。 「痛っつぅ・・・・・・!」 「・・・・・・あの、大丈夫ですか?」 足を抑える佐藤に、治療魔法をかけるキャロが心配そうに呼び掛ける。 「・・・・・・ああ、助かった。ありがとう」 彼は礼を言うと、八角形をした箱を指差す。 「あれが連中の狙っているロストロギアの入った箱だ。なんとか守ってほしい」 そうして佐藤はスバルに止血帯を絞めて止血してもらうと、足を気遣いながらも再び戦線に復帰した。 ティアナは3人に床に積まれた弾丸ケースのピストン輸送と負傷者の治療などの指示を出すと通信を放つ。 「こちらスターズ4。陸士部隊と合流。これより車内のガジェットの掃討に入ります!」 ティアナはクロスミラージュにカートリッジを装弾すると陸士逹の戦列に加わった。 (*) 10分後 防戦が続くが、全く突入のタイミングが計れなかった。そのもっとも大きな理由はボールの存在だ。 そのボールは後に『ガジェットⅢ型』と呼ばれ、強力なAMFと帯のような格闘兵装がある。そのためレーザーを撃つだけのⅠ型と違って数段に戦いにくい相手だった。 おそらくスバルの突貫力でも1体倒したら進撃が止まってしまうだろう。 (でもなんとかリニアレールを停めなきゃ、みんなが・・・・・・) リニアレールを停められれば、地上からの増援も期待でき、負傷者の搬送もできる。 先ほどティアナはなのはに支援砲撃の要請をして、 「わかった」 と返事が得られた。しかし例の新型空戦ガジェットに苦戦しているらしい。5分待ってもなのは達は来なかった。 すでに後ろには防衛していた第1分隊12人のうち7人が寝かされている。時折聞こえるうめき声が彼らの負傷の大きさを物語った。 それに敵のAMFはランカのSAMFと違い魔法の発動ができる。しかしいちいち干渉して体力を削るため、忌々しい限りだった。 「畜生!〝虫〟の次は機械かぁ!どうして俺はいつももこうなるんだぁ!俺らは〝フロンティア〟でも、ミッドでも、ただ平和に暮らしたいだけなのに!」 ティアナの隣の陸士が叫ぶ。彼女には彼の真意は理解できなかったが、極度の緊張で発狂しそうなのだろうと結論づけた。 そしてそれがさらに「時間がない!」と彼女を焦らせた。すでに陸士達の生命線である弾丸ケースも残り少ない。 そうして上を見上げると取っ手があった。それは整備用のハッチで、大柄な陸士と違って小柄な六課の4人なら上にあがれそうだ。 ちなみに入った時のハッチは場所が悪く、降りられても登れなかった。 ティアナは即座に判断すると、陸士部隊の隊長を探す。 「隊長は俺だ」 名乗りをあげたのは、さっき〝虫〟とか〝フロンティア〟とか訳のわからないことを口走っていた人だった。 しかし確かに階級章は部隊で最高位の准陸尉だ。それに思ったよりまともな応対をしていた。 ティアナは意を決し、作戦を話した。 「・・・・・・つまり君らが、上に登って直接運転室を制圧するんだな?」 「はい。それまでここをお願いできますか?」 彼は床の弾丸ケースや自身のマガジンを確認する。 「・・・・・・持って、15分だ。それまでに頼む」 「了解!後方へ行くので3秒間援護願います」 「わかった。・・・・・・お前ら!5秒後に3秒間入り口に向けて全力射撃!給弾忘れるな!」 「「了解!」」 彼はMINIMIを持つ隊員2人に叫ぶように命じると、カウントしつつ彼自身も床に転がっていたMINIMIに箱型弾倉を装着。ジャラジャラうるさいベルトを給弾部に装填した。 自分もいつでも飛び出せるよう身構える。 「―――――2、1、GO!」 途端地獄の釜を開けたような轟音が車内を包んだ。3挺の機関銃のそれぞれから毎分750発にも昇る弾丸が飛び出し、敵の頭を完全に押さえ込んだのだ。 そしてティアナは「GO!」のカウントと同時に迷いなく遮蔽物から走り出し、規定の3秒経つ前に10両目に飛び込んだ。 (*) 「しかし隊長もお人が悪い。この残弾じゃ、あと25分以上は持ちますよ」 先ほど彼女らに助けられた佐藤曹長が発砲音に紛れぬよう、耳元で言う。 スバルという少女が10両目に積載していた弾丸ケースを次々ピストン輸送してくれたおかげで、前線には十分長期戦に耐えうる数がそろっていた。 「まぁ、お手並み拝見ってことだ。15分過ぎてもあの子達が到達できなければ侵攻して援護してやろう」 「了解!」 佐藤は答えると、憎憎しいガジェットⅠ型に89式小銃をぶっ放した。 (*) ティアナは10両目につくと、弾丸ケース運びに勤しむスバル、負傷した陸士達に治療魔法を行使し続けるエリオとキャロに指示を出す。 「スバル、このハッチを吹き飛ばして。エリオとキャロも行ける?」 「「はい!」」 2人の元気のよい返事に、破砕音が混じる。 スバルのリボルバーナックルが、ハッチをロックごと吹き飛ばしたのだ。そこからのぞく南海の海のように透き通った青い空。 ティアナは頭を慎重に出す。ガジェットⅡ型はなのは隊長達によってほとんど掃討されたはずだが、油断はできない。 果たして打ちもらしが1機飛んでいた。 ティアナは素早く照準し、一発ロード。それを対AMF炸裂弾1発で見事撃破した。 「よし!」 自らを勇気付けるようにかけ声を上げると、這いずるように外に躍り出る。暴力的な風が吹き荒れているが前に進めない程ではない。 周囲を警戒するうちにスバルも登って来て、エリオ、キャロもすぐに引っ張り上げられた。 「行くわよ!」 上にいても聞こえる『タタタッ』という三点射のスタッカート。それが聞こえている間は、彼ら陸士達の生存の証だ。 陸戦型ガジェット達も上がって来れないらしく、順調に行軍は続いた。 余談だがこの時キャロが鳥のフンに滑って谷底に落ちそうになるというハプニングがあったが、その他には問題なく、運転室まであと2両に迫っていた。 (このまま行けば・・・・・・!) ティアナの中でフォワードの初陣を白丸で飾れると期待が膨らんだ。 (*) 漆黒の邪悪なる翼はすぐそこまで迫っていた。 しかし、4人にそれに対する効果的な対処法はなかった。 (*) ティアナがジェットエンジンの轟音に気づいて音源を視認した時にはもう目と鼻の先だった。 突然山肌から出てきたのは例の新型空戦ガジェットらしかった。それはアルトがいればすぐに、統合戦争で使われた統合軍無人偵察攻撃機「QF2200 ゴースト」だと看破しただろう。 このゴーストは未確認情報だが、統合戦争末期に当時の先行試作人型可変戦闘機、VF-0『フェニックス』のブースターパックとして無理やり装備されたことがあるという。 しかし装備は当時のものより遥かにグレードアップしている。ミサイル数発、12.7mm機銃1挺だった武装はマイクロミサイルシステムの進歩によって装弾数が数倍にはね上がり、機銃は魔力素粒子ビーム機銃に換装されている。更に機体下部には20mm3連装ガンポッドが追加装備されていた。 また、運用当時以上の高機動で長時間の飛行を維持していることから推進系も通常のジェットエンジンからバルキリーと同種の熱核タービンに換装されているようだった。 無論そんな考察はティアナ達には行えなかったし、ガジェットの5~6倍は大きいその機体に圧倒されて声もあげられなくなっていた。 そのゴーストは、マイクロミサイルを乱射すると即座に退避した。 置き土産たるミサイルは直後到着したなのはの支援砲撃と、ティアナのとっさの迎撃が食い止める。しかし、ワンテンポ遅れてやってきたミサイル1発は運悪く撃墜出来ず、4人の足下に着弾した。 恐らく殺傷設定だったミサイルだが、デバイスが緊急展開したシールド(シールド型PPBと魔力障壁)が破片を防ぐ。しかし、爆発の衝撃までは殺しきれなかった。 結果として着弾地点からリニアレールの前方にティアナ。後方にスバル。そしてエリオとキャロは谷底へ落ちていった。 (*) 頭がクラクラする。意識も混濁し、視界もブラックアウトしたまま回復しない。どうやら頭を打ったらしい。しかし自分がなぜこんなことになっているかがわからなかった。 (あれ・・・・・・なんで・・・・・・) 「ティア!」 「!」 親友の呼び掛けによって前後の記憶が蘇る。 こうしてはいられないと頭を振って視界を回復させると、すぐに立って対応をしようと手を床に付いた。瞬間、自分を優に越える大きさの影が覆った。 例の新型空戦ガジェットだ。おそらくトドメをさしに来たのだろう。しかし迎撃しようにも、気づいたときには手の内にクロスミラージュがなかった。どうやらさっきの衝撃で落としたらしい。 視界の端にスバルの姿が写る。彼女は自分の元に駆けつけようと急いでいるが、穴から出てきた新型、ボールに阻まれ間に合いそうもない。 自分の名を叫ぶスバルの悲痛な声が聞こえる。その間にゴーストのセンサーがこちらをロック。その重たそうな3砲身の銃口が向けられ、回転を始める。 デバイスのない今、兵器レベルの物理投射攻撃を受ければおそらく即死。自らの体はバラバラになり、原型が何かすらわからないだろう。 (・・・・・・痛くなければいいな) 頭も依然として朦朧とするし、助かるはずもない。完全に観念して瞼を閉じた。 しかしそこで彼女はあり得ないものを見た。 大好きだった兄と誰かが肩を取り合って笑っている。あれは――――― (アルト先輩・・・・・・?) 刹那、爆音のような発砲音が耳を塞いだ。 しかし、体を裂くような感覚はやってこなかった。 瞼を開けると、目の前のゴーストが真横からハンマーで殴られたようにひしゃげている。おかげで射軸から逸れたらしい。その打点とおぼしき場所には見覚えある青白い尾を引いていた。 『(無事かティアナ!?)』 同時に念話が届き、ひしゃげてバランスを崩していたゴーストを純白の巨人が殴り飛ばした。 ティアナはしばらく惚けたようにその機体を見つめていると、やっと何が起きたかを理解した。 『(は・・・はい!)』 やっとの思いで返事をすると、VF-25は安心したようにバトロイドからファイター形態に可変。 アルトは 『(あの機体には気をつけろ)』 と言い残し飛び去った。おそらくなのは達の支援に行ったのだろう。 ティアナは救援に来たスバルが彼女の肩に触れるまで、その後ろ姿を見つめていた。 (*) そのガジェットは手強かった。 まず機動が読めない。敵はなんらかの慣性制動装置と多数のスラスターを併用して、無人機最大の強みである機体の耐G性能の限界まで引き出し、大気圏内にもかかわらずほぼ直角の回避運動を行う。 ちなみにこの武装、スラスターを含むオーバーテクノロジー系列の慣性制動システム、そして反応エンジンは元の設計にはなかったものであり、スカリエッティの改良の成果だった。 今回のデバイスの改良で多数のOT・OTMを装備したフェイトは、彼ら相手にほぼ互角の戦いを繰り広げていた。 フェイトが銃撃しながら接近してきたガジェットに攻撃するため逆に肉薄する。 機械の軌道理論と確率論に沿った火線を避けることは、神速を誇る彼女には容易いことだ。しかしそれが2本、3本と増えると事情が変わってくる。 次の瞬間にはフェイトに向かい、違う射角から2本の集中射が襲う。 なのはとしても他の2機の突入を阻止するのが精一杯でそこまで手が回らない。 フェイトは自身の超高速移動魔法によって稲妻のようなハイマニューバでその火線から逃れるが、肉薄していたガジェットがマイクロミサイルを斉射。8発ほどのミサイルが白い尾を引いてフェイトに迫る。 このまま突入するのは危険だ。しかし、いかが彼女の超高速移動魔法でも前進へと向けられた音速レベルの慣性を瞬時に消滅させることはできない。 そこでフェイトは1発ロードしてOT『イナーシャ・ベクトル・キャンセラー』を最大。そして今回の改修で新たに装備されたOT『キメリコラ特殊イナーシャ・ベクトルコントロールシステム』を起動する。 このシステムは第25未確認世界ではクァドランシリーズの慣性制御装置として使われ、安価でVF-25のISC(イナーシャ・ストア・コンバータ)に劣らぬ性能を誇る。しかし、ミッドでは技術的な問題から最大出力での稼働時間が極端に短い。そのためここぞというときに使う装備だ。 起動と同時に2発ロード。その能力を保持するため魔力で形成された黄金色の羽根のようなフィンが足首に展開され、時をおかずに急制動を掛ける。 音速で飛行していたフェイトは1秒でその速度を零に持ってくると、周囲にプラズマランサーのスフィアを生成。それを置き土産に一気に反転して全速で離脱する。 すると彼女を追っていたミサイルはフェイトの狙い通りスフィアの目と鼻の先を通り、直前に射出されたランサーがその全てを見事に叩き落した。 ミサイルを発射してそのまま直進してきたガジェットにもその必殺の矢が4本ほど向かうが、元来直進しかしないそのランサーは容易くかわされてしまった。 フェイトの命令さえあれば再び方向転換して再追尾できるのだが、残念ながらランサーはガジェットが出しうるらしい音速の2~3倍という速度についていけない。これが対魔導士を念頭に置いて開発された現状の魔法の出しうる限界値だった。 こうしたことが続き、敵もこちらの支援砲撃が邪魔で5対1による物量戦術には訴えられず、フェイトもまた敵を捉えられなかった。 しかしガジェットと違い生身であるフェイトの消耗は目に余る。 例え魔法と新装備である各種慣性制動システムを全力で駆使しようと、音速レベルではその慣性を全て吸収してはくれない。 さきほどの緊急制動では単純計算で34G掛かる。各種慣性制動システムを使って軽減しても少なくとも5G、最悪10G近い重力加速度がフェイトの華奢な体にかかっていた。 このような状況では自分が支援砲撃をしなければ彼女は1分ほどしか持たないだろう。 ティアナの砲撃要請を受けていたなのはだったが、そのためこの戦線から抜けられず、どうにもならない気持ちにイライラしていた。 そこに自分達から遥か遠方で現場の指揮を取るロングアーチ分隊から緊急通信が開いた。 『敵の新型空戦ガジェットが1機、リニアレールに接近中!屋根から運転室を奪取しようとしているスターズ、ライトニング両分隊に奇襲をするつもりのようです!』 通信士を務めるルキノがガジェットの機関銃のように報告する。 新型の空戦ガジェットは周囲1キロ近くの全周波を常に撹乱―――――つまりジャミングしているので遠距離にいた自分に通信を送ってきたようだ。 気づけばフェイトと戦闘している敵が4機に減っている。 なのははルキノの滑舌のよさと、一歩下がった位置で戦局を冷静に見てくれている友軍がいることに感謝すると、リニアレールに飛ぶ。 4機ならばフェイトは少なくとも1分は持ち応えられる。しかしあの4人では10秒持つかどうか・・・・・・ ロングアーチの警告通りリニアレールを襲ったガジェットのミサイル迎撃を支援する。 だが、自分にはここまでしかできなかった。 いつの間にかフェイトと交戦していた4機のうち2機が、そして列車を攻撃していた1機が自分を包囲。徐々に範囲を狭めつつあったからだ。 スケジュールの関係でまだ大規模なOT・OTM改装の進んでいないレイジングハートには、フェイトや新型空戦ガジェットのような超高速の戦闘機動を行えなかった。また、能力限定リミッターがかかっていることも彼女の足を引っ張った。 空戦ガジェットから伸びる光の矢。受け止める魔力障壁が不自然に歪んだ。 (これは魔力レーザー? いや、実体弾みたいだね) 正体を見切ったなのははシールド型PPB(ピンポイントバリア)に切り替える。連続的で強力な物理攻撃に対して魔力障壁はあまりに脆かった。 なのははカートリッジを2発ロードするとレイジングハートを胸に抱き、突撃体勢をとる。 「レイジングハート!」 自らの呼びかけに、レイジングハート本体の赤い球がわかったように点滅する。そして時を置かず杖の後方に魔力球が出現。瞬時に自爆して突発的な魔力爆発を起こした。 なのははそれにバインドを掛け、四方に広がろうとする爆圧を後ろに集束させた。それによってレイジングハート・エクセリオンのSランク時のA.C.S(瞬間突撃システム)に匹敵する莫大な推進力を得たなのはは目前のガジェットに突撃する。 これまでの戦い方からこちらが間接攻撃しかできないと認識していたらしいガジェットは、突然の特攻に対応が遅れている。 その隙を突いてバルキリーのPPBパンチの要領でPPBをレイジングハート先端部に集中、泣けなしで相手の発射した機関銃弾数発を弾くと、あやまたずそれは機体本体に直撃する。 結果、AMFもPPBSもないガジェットの外壁をそれはいとも容易く貫いた。 「シュート!!」 宣言と共に放たれたゼロ距離砲撃によって機体のメインフレームを寸断。10メートル近い巨大な黒鳥は空中分解しながら急速に金属部品へと還元していった。 しかし、残り2機が機首に付けられたカナード翼と三次元推力偏向ノズルを上向き最大角にし、ほぼ機首を軸に急旋回。おそらく動きの遅くなったなのはを機銃弾で一気に撃破する腹づもりなのだろう。 なのはは2方向からの同時攻撃には通常バリアでは対応できないと判断。カートリッジのロックをフリーにしてレイジングハートに命令する。 シレンヤ氏 第6話 その2へ
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赤い文字 話リンク ・ストーリー ・内容 炎と炎 アリサとアリスト Fの季節の血戦 とらわれのなのは なのはの恋路……そしてディアブロの過去 その2